印鑑用の石です。3人の老人が月見をしています。
北京の朝陽區にある潘家園舊貨市場という骨董市で買いました。
家具やら壷やら茶器やらアクセサリーやら2m以上もある石の観音様やら、とにかく広くて賑やかで、ごちゃごちゃとなんでもあります。一日いても飽きなさそう。
個人が様々なものを持ち寄って売っています。畳2畳ほどにも満たないブースがずらりと並ぶ屋根の下のスペースと、青空の下でフリーマーケットのようにアスファルトの上に直接品物を並べて売っているスペースがありました。ブースの方は常設ですが青空市は土日だけなので訪れるならぜひ週末に。平日は買い物客も少なく閑散としているそうなので。
聞くところによると、本物の骨董というのは、今、中國の一般的な市場にはほとんど出回っていないそうです。古美術として売られているものの99.9%は偽物と思っていい。模造の技術がすごく発達していて、レプリカを造る現場に行ったことのある人の話によると、陶器などは放射線測定すらごまかすことのできるような方法があり専門家も見分けることが困難です。
だから骨董市では本物の骨董品を求めるのは、はなから諦めて、精巧な民芸品や工芸品を探すような気持ちで見るのがいいかと思います。
私は特に石に興味があったわけではないのですが、親戚に旅行の餞別を貰っていて、お土産を何にしようと考えたとき、そうだ、印鑑用の石にしようと思いついたのでした。親戚に買ったのは、寫真の石より一回り大きな乳白色に薄く紅を差した石で、彫刻もより精巧な鳥の模様のものでした。寫真の赤い石とその乳白色のものと、どちらにしようか迷いに迷って、お土産用には見た目が華やかな方がいいだろうと乳白色の石を選んだのですが、実は私自身は寫真の赤い石に魅せられていて、どうしても欲しくなって自分用に買ってしまいました。300元(4200円)でした。
月下美人ならぬ月下の三賢人、いかにも中國らしい哲學的な趣ではありませんか。
ところで、こういう場所では値段の駆け引きが欠かせないのですが、これには上手な人と下手な人とがいます。私はだめです。苦手です。
以前ラジオで穀村新司が、値段の交渉にはコツがある、と言っていました。高いから負けてよ、というのは禁句だそうです。まるで相手が不當に高い値をつけてると言ってるようなものだから。まとめて買うから負けてよ、とか、端數を負けて、とか、言い方があるのだそうです。
それくらいなら私にもできそうですが、本當に駆け引きの上手い人を見ていると、始めからすぐに、負けてよ、とは言いません。まずはおしゃべりして、冗談でも言ってお店の人を笑わせます。おだてたりもします。例えこれという目當てのものが始めから決まっていたとしてもそれを表に出さずに、目的以外の物もためつすがめつ見て手に取ったり値段を聞いたり、店の人から商品についてのレクチャーを受けたり。
そういうのを見ていると、値段交渉というのは、ただ物を安く手に入れるためだけにあるのではないという気がします。それはコミュニケーションです。物とお金のやりとりと同時に感情が交換される場、自分の持っているもの(感情)と相手のもの(感情)との価値交換の交渉を通してそこに何か新しい感覚が熟成されていくような場、なのではないかと考えます。対麵での買物のおもしろさ、市場の活気やわくわく感はそうしたところから生まれてくるのではないでしょうか。
しかし今回の旅行では、そういう駆け引きを好まないお店(人)が昔に比べて増えたように感じました。うちは定価だよ、値段交渉には一切応じないからね、という姿勢を貫くお店や人が多々ありました。確かに客の一人一人といちいち交渉するのは時間がもったいないし、とても麵倒です。スピードと効率と合理性が要求される現代社會にはふさわしくないのかもしれません。
ではこれにて、旅行記はおしまい。