9月13日の朝日新聞に、興味深い記事があったので、一部引用する。東京大學大學院學際情報學府(博士課程)の開沼博さんという方の話。
原発は、良しあしは別にして、少なくとも半世紀単位で立地自治體に雇用をつくる「有効な地域開発ツール」とされてきました。事故の後もなお原発を手放そうとしない立地地域には、行き場を失った日本の地域政策への絶望がある。「脫原発」を望むなら、叩きつぶすべき悪者や憤りの大聲という「北風」以上に、「言うは易く行うは難し」を一番知っている立地地域を説得しうる論理という「太陽」が求められます。
4月、原発に近い福島県富岡町に住んでいた方に「あなたにとって東京電力はどんな存在ですか」と聞くと「高校の同級生とか近所の友人の顔が浮かぶね」という。立地地域にとっての原発や電力會社は「テレビの中できれいな作業著を著て記者會見している人」ではない。メディアをにぎわす「推進/反対ゲーム」についてはどこか他人事。ある麵でこの半年、中央でなされてきた原発に関する議論や「脫原発のうねり」は「フクシマ」の現場では空転しっ放しだったと言っていいでしょう。
推進、反対、いかなる立場をとるにしても、事態を好転させるため今求められるのは、無意識だったにせよ、なぜ私たちの社會が戦後を通して原発を是とし維持してきてしまったのかという問いに冷靜に、真摯に向き合うことです。その根底には「地方と中央」の問題があります。原発が日本各地にできたのは、「経済成長は善」「脫貧困は善」「電力安定確保は善」といった中央の「善意」の論理を地方に當てはめた結果であり、その構造は今も続く。
かつて福島にも原発建設反対運動があった。東北電力が計畫した浪江・小高原発が建設されずにきたのは、端的に言えば「土地を守る」という地元住民の論理がぶれなかったから。「中央の論理」から「地方の論理」を取り戻そうとする力に、原発を維持してきた社會を変える可能性があります。
數日前に、東電が原発のある3県の自治體に20年間で総額四百數十億円の寄付をしていることがわかった、というニュースが流れた。
原発が建設されてきた過程は、地方が大都市の電力のためにただ原発を押し付けられた過程ではない。都市部から吸い上げられた利益が地方へと還流されるしくみの中に、人々の生活が組み込まれている。そうして生活水準の底上げ、日本全體の豊かさが実現されていった。電力を消費する側も供給する側も、今ある日本人全部の生活がどこかよそへ危険を押しつけて(或いは押しつけられて)その代価を支払う(或いは受け取る)しくみによって成り立っている。そのしくみを成り立たせる道具として、原発は必要とされてきた。
開沼氏は、この後、こんなふうに続けている。
「フクシマ」の問題は、遠からぬ未來に、消費され忘卻されるでしょう。原発報道は徐々に減っていく。脫原発の運動は互いのささいな違いから分裂し、細切れになり、力を失っていく。一方、推進側は簡単には方針を変えず、粛々と原発の再稼動を進めていく。
理想を語り、怒るだけでは、問題が解決されないまま後世に引き継がれてしまう。それは地元の人が一番よくわかっている。沖縄の基地問題を始め地方が抱えてきた問題の多くに共通することです。
開沼氏の言うように、今後、「フクシマ」の問題は、段々と消費され忘卻されていくのだろうか?力を失っていくだろうか?
膨大な地震のエネルギーが起こした甚大な被害を及ぼす事故、広い範囲への影響力(それは地理的に地方だけでなく中央へも及んでいる)、傷ついた遺伝子、これから傷つけられるであろう命、そうしたものが容易に忘卻を許さないのではないだろうかと、私は思う。
地震が引き起こした原発事故は日本にとって大きな試練ではあるが、一方で中央と地方の壁を超えて、人々が新しい論理やしくみによって結びつくチャンスであるとも考えられる。
最後に、開沼氏は、忘卻されるだろうという恐れの中で、フクシマの問題への解答と希望は「現実を見る」ことだ、と言っている。同感である。
アカデミズムとジャーナリズムの責任も重い。この半年、どれだけの人が自ら現場を見て、地元の人の言葉に耳を傾けようとしたか。中央の人間が一時の熱狂から醒めて去っていった後、最後まで殘るのは汚染された土地と補償問題、そこに生きる人々の「日常」です。その現実を見ることにこそ、宙づりになりつつある「フクシマ」という難問への答えと希望があります。
>僕は結果論よりプロセスのほうがよっぽど意味深いだと信じているから、議論をこれからいつまでも続けるべきだと思う。
私もそう思います。
最近日本のメディアでは原発についてなぜかあまり公けに議論しなくなりました。よくない傾向かもしれません。
ただ、昨日の月曜日、東京の上野公園で6萬人の反原発デモがあって、それはめずらしくメディアでもきちんと取り上げられていました。
こういう動きが持続するといいと思います。
小春さんを応援します。