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きわめて要領の悪い虐殺

(2012-03-01 06:42:03) 下一個
 
  
 村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』にこんな話が出てくる。(小説の中のお話なので、もちろんフィクションです。)
 戦時中、中國大陸の新京動物園にて、戦局が厳しくなる中、猛獣の処分を命令された日本人の中尉が、兵隊たちを引き連れて動物園へやってきた。しかし薬殺用の薬もないまま、彼らは動物たちをどう殺したらいいかわからず、四苦八苦しながら、かなり手際の悪いやり方でやっと処分を終える。
 ひと息ついた日本人の獣醫に向かって、中國人の雑役夫が、こう言います。

 彼らは獣醫に言った。先生、もし死體をそっくり全部譲ってくれるなら、我々があと始末をいっさいひきうけてあげよう。…(略)…今となってはもう遅いけど、ほんとうは頭だけを狙って撃ってほしかったよ。そうすれば毛皮もいい値段がついたのにね。これじゃまったく素人の仕事だ。はじめから俺たちにまかせてくれれば、もっと要領よく始末してあげたのにさ。獣醫は結局その取引に同意した。任せる以外にあるまい。なんといってもここは彼らの國なのだ。
 やがて十人ばかりの中國人たちが空の荷車をいくつか引いて現れ、倉庫から動物たちの死體をひきずりだしてそこに積みこみ、縄でくくり、上からむしろで覆いをかけた。そのあいだ中國人たちはほとんど口をきかなかった。表情ひとつ変えなかった。積み込みが終わると、彼らは荷車を引いていずこへともなく去っていった。動物たちの重みで、古い荷車はあえぐような鈍い軋みを立てた。それがその暑い午後におこなわれた動物たちの――中國人たちに言わせればきわめて要領の悪い――虐殺の終わりだった。…
 

 “きわめて要領の悪い虐殺”の終わりに困惑を感じる日本人獣醫と、てきぱきと要領よく黙々と現実を処理していく中國人、この場麵が強烈に印象に殘っています。
 そして、この話に象徴されるような中國的気質、逆から言えば日本人の弱點というのが、私が中國に(中國人に)魅かれる原因のひとつなのかもしれない。


 
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