図書館で本の背表紙を眺めていたら、たまたま目についたのが『どどいつ萬葉集』という本(編者:中道風迅洞)です。なんとなく興味が惹かれて借りてみました。
どどいつ(都都逸)とは、7・7・7・5で構成される26文字の詩で、頭にさらに5文字を乘せた31文字のものもあります。もともとは三味線とともに寄席や座敷で節をつけて歌われた俗謡だそうです。
↓こんな感じです。どどいつは1分25秒あたりから始まります。
弱蟲がたった一言小さな聲で 捨てちゃいやよと言えた晩
詩の內容そのものが色っぽいのですが、芸者さんが三味線で歌うと餘計に艶っぽくなまめかしいですね。芸者だけじゃなく、太鼓持ちや芸人も歌います。
さて、『どどいつ萬葉集』には、俗謡として歌い継がれてきたよみ人知らずの古典どどいつと、明治以降文學的な詩作という意味合いをもって作られた現代どどいつと、合わせて840餘りの句が載っています。
その中から、私が気に入った句をいくつか、感想とともに紹介したいと思います。
まずは古典どどいつから。
星の數ほど男はあれど 月と見るのはぬしばかり
振られた人をなぐさめる時よく「男なんて星の數ほどいるわよ」「女なんて星の數ほどいるさ」などと言うけれど、そうじゃないんですよね。世の中に男(女)は星の數ほどいるけれど、「あの人」は私にとってたったひとつの月なのです。
あの人のどこがいいかと尋ねる人に どこが悪いと問い返す
「どこが悪い?」というのはもちろん「あの人のどこが悪いっていうの?」と問い返しているのだけれども、他人にどこがいいのと尋ねられるような人を好きになってどこが悪いの?、そんな人を好きになったっていいじゃないの、という気持ちが滲み出ているようにも思えます。とやかく言わないでよ、好きになっちまったもんは仕方ないじゃないの。
ぬしによう似たやや子を産んで 川という字に寢てみたい
川という字はそりゃ後のこと せめてりの字に寢てみたい
前の句はごく普通というか、型通りの古風な女性像の口から出る言葉という感じですが、後の句がいい。並べてみると餘計におもしろい。男性は、貴方の子どもを産みたいわ、なんて言われたらちょっと引いてしまいますよね?(そんなことないかな?)でも、「貴方とりの字に寢てみたい」なんて言われたら、どきっとするんじゃないでしょうか?
後の句は男性が詠んだと見てもおもしろいかと思います。將來の幸せな絵図を思い浮かべる女に対して、まずはそれより目の前のこと、と持ちかけるのは男の性(さが)。
まだまだあります。
続きは次回。