ネットで米山京子さんの人形の本を探していたら、たまたま文化人形と言うものに出くわした。
文化人形とは、大正から昭和初期にかけて流行った洋裝の布人形のことだそうだ。大きくぱっちりと見開いた目に真赤なおちょぼ口、ボンネットの帽子や頭巾をかぶっている。
文化人形について書かれた『リンゴ姫とキンギョ姫』(市川こずえ著)という本によると、昭和15年発行の『玩具及人形類公定価格要覧』には23種類もの文化人形が載っているそうだ。公定価格要覧とは、政府がおもちゃやお人形の規格を決め一冊の本にまとめたもので、サイズや使用される材料、販売価格などが細かく設定されている。そのなかに文化人形の規格もある。
(文化人形の)一級品規格とは一級人絹又は人絹シール仕立て衣裳著付で手足には必ずリボン(紐にあらず)が結んであり、足先は色布で靴の形を表してある。胴には必ず笛入、胴手足は、パッキン又はおがくづ詰めになっているものである。
大正から昭和にかけて、目新しい品物に、「文化」という言葉を冠することが流行ったらしい。文化住宅とか文化包丁とか文化鍋という言葉がある。文化幹しという幹物まである。文化=洋風な、モダンな、新奇なもの、ハイカラなもの、といったイメージのようだ。大正から昭和にかけてそういうイメージが付與された物たちを見てみると、古い伝統的なものとはもちろん異なるが、かといって西洋を完全に模倣したものでもなく、つまりは日本獨特の和洋折衷の様式を備えているように思う。
東洋人にはないぱっちりとした大きな目、しかし西洋人のような碧眼ではなく、白目の部分に水色を差して、全體は黑目となっている。服の色は子供を守るという迷信から赤がよく使われる(これはもともと中國の迷信かもしれない。)スカートにひらひらのフリル、大きなボンネット、すらりと伸びた長い足、手と足の印のリボン。必ず靴を履いている。おそらく始めは西洋の高級なお人形(例えばフランス人形など)への憧れから始まり、普通の家庭の子供が手軽に手に入れられるよう簡素化するとともに、日本人の伝統的な美的感覚を追求していった結果、政府の公定価格要覧に規定されているような形に定まっていったのではないかと思う。
文化人形の姿形は、本物の西洋人を模した人形(ひとがた)でもなく、本物の日本人を模した人形(ひとがた)でもない、愛らしさを追求し抽象化された人形(ひとがた)である。「様式化された美」を感じると言ったら大げさだろうか。
ネットや図書館で借りた本を見て、試行錯誤しながら作ってみた。絵心があるほうではないので、アクリル絵の具で顔を描くのがとても難しい。見習いのこけし職人になった気分で、名人と呼ばれる人たちはいったい何體の人形の顔を描いたものだろう、などと想像しながら。
米山京子さんの人形は眺めて楽しむものだけれど、文化人形は雑に扱っても丈夫に出來ているので小さな姪たちに大好評。持ったり抱いたり振り回したりして、お人形さんごっこができるのだ。人形にしてみれば、子供に「遊んで」もらうのが一番のお役目なのかもしれない。