個人資料
正文

古本屋

(2009-08-16 22:00:44) 下一個
 
 家から自転車で十分ほど行ったところに、全長五百メートルほどの商店街がある。かつては神社の門前町として栄えた通りだが、ご多分に洩れず衰退の一途をたどっている。
 そこに、等間隔に、古本屋が3軒もある。最近流行の“本のリサイクル店”ではなく、昔からある純粋な古本屋だ。間口が狹くて奧に細長い。一軒は漫畫専門で店內の雰囲気も少し明るめだが、他の二軒は日に焼けて赤茶けた本が天井までうずたかく積まれ、薄暗くかび臭い匂いがする。そして、かび臭い本の山に埋もれて、時代から取り殘されたような古ぼけた店主が店番をしていた。

 私は本を読むのは好きだけれども、古本屋に足繁く通う趣味はなかった。もっぱら新しい本を買う。
 2ヶ月ほど前、欲しい本が廃版になって手に入らないのでネットで検索してみたら、ネット販売もしている古本屋の在庫リストに書名が載っているのを見つけた。住所を見てみると、なんと近所の商店街だ。しかしよく読むと、トップページに「店主腰痛のため、しばらくお休みします。」という斷わり書きがあり、がっかりした。
 店主の腰痛がよくなるのを待ちわびながら、ホームページをたびたび開いてみるが、いつまでも再開しない。とうとう直接足を運ぶことにした。玄関のガラス戸は內側にカーテンが引かれ閉まっている。ガラスには小さな張り紙があって、遠慮がちなあまり上手くない字で「しばらくお休みします」と書かれていた。

 その後、何度か様子を見に行き、三度目にとうとうガラス戸が開いていた。店頭で年配の男性が汗だくになって本を整理している。話を聞くと、店主は腰痛の手術をし、今はもう退院してよくなったが気力がなくなったので店を閉めることにした、と言う。私が欲しい本のことを伝えると、うーん、まだ倉庫に何トンと預けてあるからどこにあるのかわからないなあ、と言う。來週からセールをやるから、その時にもしかしたら店頭に並ぶかもしれない、と。

 セールに行った。店の中のすべての本が正劄の半額になっている。店の奧には化粧っ気のない年配の女性が座っていた。店主の娘だろうか。慣れない店番、という感じではない。昔から店の一部であったかのように馴染んでいた。
 夏真っ盛りの晝下がり、間口が狹い店內には風も入らない。卓上の扇風機は店番の彼女だけに風を送っている。人ひとりがやっとの通路に立ち、棚を眺めながら、暑いな、と思ったら、私のその思考に感応したかのように店番の彼女が、「あつい…」と、つぶやいた。

 本の背表紙を眺めていたら、新本を売る書店よりずっと興味をそそられる魅力的な本がたくさんあることに気付く。結局欲しい本はなかったが、おもしろそうな本を何冊か購入する。
 帰りがけに、
「セールは、いつまでやってますか?」
と聞いてみた。店番の彼女は少し考えながら、こう言った。
「うーん、まだしばらくは、やってます。」


 
[ 打印 ]
閱讀 ()評論 (0)
評論
目前還沒有任何評論
登錄後才可評論.