川べりを歩く。6月になると川は青臭い苔の匂いがし始める。
淺瀬に沿っていくと、前方の水麵にいくつもの小さな水の輪がぽつりぽつりと現れては消える。近づくと輪は筋になってさーっと逃げていく。水の中を覗いても白い雲と遠くの緑が映りこむだけ。確かにそこに魚がいたはずなのに、近づくと魚の姿どころか魚の徴(しるし)すら見失ってしまう。
幸せの青い鳥はすぐ近くにいるものだと言うけれど、すぐそこにいる魚すらこの目で捉えることができないではないか、と沈んでいたら、去年の夏のことを思い出した。
ああ、そういえば去年の夏、同じ川の淺瀬でぴちぴちと跳ねる一匹の鮎を見つけ、素手で捕らえたのだった。ぬるぬるとした感觸を確かめているうちにそれはするりと手の中をすり抜けていったのだった。
そんなことも起こり得るのだ。
去年の夏のこと→
「川辺で」