4月18日、香港のアクションスター、ジャッキーチェンが中國・海南島で開かれている「 ボアオ(博鰲)アジアフォーラム」において、記者団から文化活動の自由について問われ、「中國人は管理される必要がある」と発言し、物議を醸している。
メディアは彼の一部の言葉を切り取り政治と結びつけてセンセーショナルに煽っているが、発言の場や前後の內容をみると、特に過激な內容でもなく、一般的な意見を述べているにすぎないように思った。
原文を訳すと次のようになる。
「私にもよくわかりません。自由があるほうがいいのか、自由がないほうがいいのか。今はわからなくなっています。自由すぎると今の香港のようになってしまう。めちゃくちゃだ。また、台灣のようになる。めちゃくちゃ。だから、私は私たち中國人にはそもそも管理が必要なのだと思うようになったのです。」
(笑いと拍手)
「もし管理しないと、自由にすると、私たちはつまり“したい放題”ということになってしまいます。」
この後、彼は、シンガポールでチューインガムの持ち込みが禁止されている例を挙げる。法律で禁止しないと多くの人は噛んだガムを平気で道に捨てたり、椅子の上に置いたりする。アメリカや日本と違って自重することをしない、と言う。
つまり、彼が言いたかったのは、法と道徳の問題であろう。
また前提となるのは、これが中國での映畫の検閲についての質問に対する答えであるということ。つまり、質問には暗に、検閲によって自由が製限されているということをどう思うかという意味が含まれていて、そういう検閲の持つ製限に対するエクスキューズ(言い訳)として上の回答があるということを考えなければならない。
このボアオアジアフォーラムは、毎年中國の海南島で行われていることからもわかるように、中國政府の主導により誕生した國際會議である。そういう“場”で、娯楽映畫を作る映畫関係者がマーケットのことも視野に入れれば、検閲の是非についてある程度肯定の立場で物を言うのは當然かとも思う。
ちなみに、この発言の前後で、彼は、我々は(中國は)長い歴史を持っているが國家としてはまだ數十年と若いのだから學ばなければならないことがたくさんある、これから中國はどんどん変化していく、それぞれの國にはそれぞれの製度があるのだ、とも言っている。これもおそらく、自由の製限について、急激に開放を要求されることへの言い訳だと感じた。
これと同時に、メディアでは彼の「中國製のテレビは爆発するかもしれない」という発言を取り上げている。始め切り取られた言葉だけを見たときは、一方で台灣や香港の自由を批判し、一方で大陸の製品の品質を批判することで、いったい何を伝えようとしたのか、さっぱりわからなかった。だが、全體を見てみると論理が通っているのがわかる。
「もし私がテレビを買うなら絶対に日本製を買うよ。中國製は爆発するかもしれないから。中國の多くのメーカーは信用を失っている。たくさんの小さなメーカーが大メーカーに影響を及ぼしているんだ。粉ミルクのことだって、みんな…、ある種の…、ああ上手く言えないな…。」
このあたりはかなり感情的になって怒り心頭という調子で言葉につまっているが、これと同じ怒りはおそらく粉ミルク事件で多くの中國人が感じたことだ。前者と同様に、中國人の道徳心や倫理観を問題にしている。
全體として言わんとするところををまとめると、「中國では映畫の検閲など自由に対して規製がある。しかし、改革開放からまもない今の時點では、いまだ自主的な道徳心が養われていない中國人を見ると、果たして自由にしてしまうのがいいのかどうか、私にはわからなくなってしまった。中國はまだまだこれから學ばなければならないし、學んでいる最中だ」、ということだと思う。
それに対して、発言の一部が切り取られ、特に台灣からここまで大きな非難を浴びるのは、そもそも彼と台灣との関係に確執があるからで、彼は過去に台灣の政権をちゃかして數年間締め出しを食ったことがある。今回もわざわざ台灣を引き合いに出す必要もなかっただろうに、機を窺っていた台灣のマスコミに、不覚にも格好の攻撃のチャンスを與えた形となってしまったようだ。