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産経新聞 4月22日(火)10時0分配信
武田薬品工業が糖尿病治療薬「アクトス」の発がんリスクを隠していたとして、米連邦地裁の陪審が出した60億ドル(約6100億円)もの懲罰的賠償金の支払いを命じる評決が波紋を呼んでいる。評決は判決ではなく、賠償が決まったわけではないが、賠償金は過去最大級で、武田株が急落するなどの「騒動」に発展。武田では“稼ぎ頭”として経営を支えたアクトスの後継薬が開発が中止に追い込まれており、事業環境も厳しい。6月のクリストフ?ウェバー最高執行責任者(COO)の社長就任を前に、武田は大きな壁にぶち當たっている。
■賠償額は提攜先合わせ1兆円規模…!!
裁判は、アクトスの投與が原因でぼうこうがんになったと主張する米國人男性が、武田を相手取り起こした。原告側は、武田がアクトスとぼうこうがんの関連性についての情報提供を怠ったと主張していた。
アクトスをめぐっては米食品醫薬品局(FDA)が2010年、服用でがんにかかる危険性が高まる恐れがあると発表。だが武田は、「がん発症リスクを隠した認識もなく、がんを引き起こす確かな根拠もない」と反論している。
結局、米ルイジアナ州ラファイエットの連邦地裁の陪審は、武田だけでなく販売提攜する米イーライ?リリーにも30億ドル(約3100億円)の賠償支払いを求めた。武田の分と合わせると90億ドル(約9200億円)にも上る。
■高額の「懲罰的賠償」額はわずか45分で決定!?
懲罰的賠償は、高額の賠償金を出させることで、加害者を「懲らしめる」と同時に、同様の事態を引き起こせば多額の賠償が求められることを世間に知らせ、再発防止につなげるのが目的だ。
ただ、懲罰的賠償を課すかどうかや、金額は陪審や裁判官の裁量に委ねられている。このため、被害者の狀態や加害者の行為に対する判斷者の「主観」が反映され、賠償額が過大になることもあるという。
米國ではマクドナルドの例が有名だ。熱しすぎたコーヒーでやけどしたニューメキシコ州の女性が損害賠償を求め、女性の主張が受け入れられる形で1994年、約300萬ドルの賠償金を認める評決が出された。
また、たばこメーカー大手5社が、がんや心臓病などにかかったフロリダ州の喫煙者らに損害賠償を求められた集団訴訟では、総額約1450億ドルの賠償金を原告側に支払うことを命じる評決が2000年に下された。
ロイターによると、武田の事案について、陪審はわずか1時間10分で指摘された全14項目の問題の責任が武田にあると結論づけ、その後45分で巨額の賠償額を決定したという。
■最終的には「減額」か「無効」…?
たばこメーカーほどではないが、武田のケースも過去にあまり例がない巨額賠償評決だ。武田は「到底承服できず、可能なあらゆる法的手段で爭う」とのコメントを出し、評決の取り消しを求める方針を表明している。
アクトスは武田が1999年に開発し、ピークの2007年度には世界で3962億円を売り上げた。11年に特許が切れるまで莫大(ばくだい)な売り上げをもたらす「ブロックバスター」として、武田の屋台骨を支えた。販売額が大きいだけに、賠償額も上がったとみる向きもある。
とはいえ、カリフォルニア州など複數の裁判所の陪審も昨年、武田に損害賠償支払い義務があると認定したが、判事はいずれも評決を無効とした。業界では「今回も無効となる可能性が高い。少なくとも減額はされるだろう」と指摘する聲が多い。
■訴訟コストに“次期エース”の開発中止…、吹き荒れる「逆風」
それでも武田が“無傷”で済むとはかぎらない。アクトスをめぐる米國での訴訟は數千件に上るといい、その対応には相応のコストが必要になる。今回の陪審が示した賠償費用が巨額だったことから、業績への影響に対する懸念も膨らみ、武田の株価は8日に5%安と急落、年初來安値を更新した。
事業環境も厳しい。武田はアクトスの後継として糖尿病治療薬「ファシグリファム(TAK-875)」の開発を進めていたが、一部の患者に肝機能障害を引き起こす可能性があることがわかり、昨年末に開発中止を発表。後発薬との競合激化も頭をもたげており、世界との激しい競爭の中、収益性を高めることは厳しくなっている。
6月には、長穀川閑史(やすちか)社長がスカウトしたライバル英製薬大手出身のウェバーCOOが社長に就任する。だが、就任前から解決すべき課題はめじろ押しだ。ウェバー氏の手腕に、否が応でも注目が集まる狀況となっている。(中村智隆)