貧困認識
(2007-02-04 06:44:36)
下一個
1:新古典派アプローチの貧困認識は次のように要約できる。すなわち、「途上國が貧しいのは、人的資本への投資が少ないためであり、また政府による過度の介入あるいは保護主義的な輸入代替工業化戦略の下で市場が歪められてしまったためである。したがって貧困問題を解決するためには、(1)人的資本への投資を促進し、(2)政府の介入を極力おさえることによって人為的に作られた市場の歪みを正し、(3)比較優位にそった輸出誌向工業化戦略を採用することが必要である」。 新古典派論者が主張した輸出誌向工業化戦略は、彼らが批判した構造主義の輸入代替工業化戦略と同様に、貧しい國という國民経済レベルでの貧困を問題にしたものである。これに対しシュルツの議論には、貧しい農民という具體的な経済主體が登場する。シュルツの貢獻は、こうした貧しい農民もまた経済合理的な行動を追求し、変化する経済狀況と機會に適応し革新する意欲に満ちあふれている點を強調した點にあった。
2:構造主義アプローチの貧困認識は、次のように要約できる。すなわち、「途上國が貧困狀態から抜け出すことができない理由は、第一次産品輸出に依存した経済構造のためであり、また資本不足をはじめとするさまざまな供給サイドの隘路が存在するためである。その結果、途上國は低水準均衡から容易に抜け出すことができない。したがって経済が発展し、貧困問題が解決されるためには、途上國に不利になるような國際的な貿易・金融製度(いわゆるIMF=GATT體製の下での自由貿易製度)の改革と並んで、輸入代替工業化の推進が不可欠である。輸入代替工業化が成功するためには、外部経済を內部化する必要がある。すなわち大規模な工業化および産業インフラへの投資が開発を可能にする。そこでは政府の果たす役割(あるいは計畫化)は不可欠である」。
構造主義者たちが問題にしたのは「貧しい國」の経済構造であり、また「貧しい國」と「豊かな國」との間の経済格差の拡大であった
3:改良主義は、「貧しい人々」というミクロの主體にはじめて焦點を當てた。そのことによって開発と貧困との間に橫たわるギャップを明るみにだすことに成功した。また開発と貧困との間に楔を打ち込むことによって、貧困層にターゲットした開発戦略という新たなアプローチが生み出されることになった。
4:以上、構造主義、新古典派、改良主義という開発経済學を代表するアプローチが、それぞれどのような貧困認識を抱いていたのかという點を概観した。この概観からただちに読みとることができるのは、2つの異なったレベルでの議論が「貧困」という言葉にまつわりついているということである。「國民経済レベルでの貧困」と「個々人のレベルでの貧困」である。貧困問題を理解するにあたっての課題は、ミクロ(個々の経済主體)アプローチから見えてくる貧困問題とマクロ(國民経済)アプローチから見えてくる貧困問題をどう関連づけるかという點である。
改良主義と新古典派は、貧困対策の主體として政府(公共政策)か市場かという二律背反的な対立を內に含んでいるとはいえ、相互に共通項があることを見逃すべきではない。その共通項とは、貧困撲滅のためには雇用促進的な成長戦略が必要であるという點と、人的資本への投資が不可欠であるという點である。構造主義アプローチの弱點は、この2點を無視したことである。ただし構造主義アプローチが提起した、成長のためには資本蓄積と工業化が必要であるという主張そのものが放棄されたわけではないという點も忘れてはならない。改良主義および新古典派の批判の要點は、貧困撲滅のためには資本蓄積と工業化だけでは不十分であるという點にある。70年代の國際機関における貧困問題に対する取り組みの発展は、貧民の雇用機會を拡大するような開発戦略が貧困撲滅にとってのメイン・ルートであるという共通理解が形成されてきたことにあった.