津波と原子爐建屋の爆発によって、現場は予想以上にがれきが散亂していました。海水から水を汲み上げ、ホースを使って放水車まで水を運ぶ予定でしたが、がれきが多くてホースを伸ばす作業にポンプ車を使えない。そこで隊員たちが350mほど手動でホースを伸ばしました。その間は放射能を浴びることになりかねないから、常に線量計を持って放射線量を測りながら作業させることになります。化學の専門部隊が隊員たちのそばに立って、放射線量を常に測り続けてくれました。
指示命令係統は混亂していました。指示が何度か変わり、予定より長い時間、放水を続けることにもなりました。2台出動したポンプ車のうち1台は、無理な使い方をしたことでエンジンが壊れてしまったほどです。
放射線量を睨みながら常に撤退を想定
危険な災害現場では現場で判斷しないといけないことが多い。特に大事なのは撤退の判斷です。「行け」というのは簡単だが、撤退の判斷は特に難しい。
放射線量が限度を超えそうだったら、上層部に「撤退する」とはっきり言うことを決めておきました。それは出動する前に上司にしっかり確認しておいた。すぐに撤退できる準備も怠りませんでした。作業現場には常に2台のマイクロバスを用意。放射線量が高まったり、何らかの事故があったりしたら機材などを置いて、一目散にバスに乗り込んで逃げられるようにしておきました。隊員の生命を守るのは、隊長としての使命です。
現場で臨機応変に判斷できるのは、日々難しい現場を體験しているからにほかならない。火災現場や交通事故の現場で、消防隊やレスキュー隊は危機管理能力を常に磨いている。
高山 災害の現場で最も難しいのは火災現場です。火事はまるで生き物のように変化します。さっきまで大丈夫だと思っても、急にボカーンって爆発したりする。その時の安全判斷は一番難しい。どこも危険だと考えたら救助に突入できません。突入して崩落、爆発などしようものなら、突入させた隊長の責任になります。常に緊迫した判斷を求められるから、判斷能力が磨かれるのです。
さきほどの撤退の話で言うと、退路の確認は基本中の基本です。火災現場でもパッと見た瞬間に「あそことあそこに窓がある」と確認して、常に頭に描いておくことが大事。常に隊員の逃げ道を確保しておくのが司令官の義務です。
石原慎太郎・東京都知事が思わず目に涙を浮かべたように、海外でも現場の危機対応にあたる東京電力社員や消防隊への稱賛が相次いでいる。隊員たちはなぜ現場に赴くのか。危険な現場での作業を支えるのは、指揮官と隊員たちの信頼関係だと高山隊長は言う。