高山 「給料が高いわけでもないのに、自分の生命を危険にさらしてまで、よくやるな」って言われることはあります。ですが、消防隊に入ってこのオレンジの服を著た以上は、生命が危険にさらされる覚悟はあります。他人のために救助をしているという意識は強い。隊員たちは純粋です。
ただ、現場では隊長の命令で本當に生命を失うこともあるから、隊長との信頼関係は非常に重要です。その信頼関係は普段の活動の中から生まれるものです。一朝一夕に築けるものではありません。
信頼関係は普段の態度の積み重ねです。私の場合は、自分が頑張っている姿をできるだけ見せるようにしている。およそ10年間、毎日の通勤ランニングを欠かしていません。月曜日から金曜日までの勤務で片道8km、往復16kmを走って通勤しています。雨だろうが毎日走ることで、部下に優柔不斷ではないことを分かってもらえるのではないでしょうか。
消防は體を鍛えてばかりいるイメージがあるかもしれませんが、醫療の勉強もしています。NASA(米航空宇宙局)にある救急の専門組織に自費で參加したこともあります。米國では醫療的な見地を踏まえた救急をしているからです。現場の救助の仕方によってその後の手術や回復の具合も変わってくるので、醫療の知識が必要だと考えました。
上に行くほど明るさが大事
隊員や部下は上司をよく見ていますよ。上の顔色ばかり見ている上司のことを部下は尊敬しません。尊敬して心を1つにしないと現場は動かない。ご機嫌を取るわけではないけど、部下の視點というを意識しています。
職場を明るくすることも大事ですね。絶対に。上に行けば行くほど明るさが必要ではないでしょうか。もちろん、ずっとニコニコしているわけではありません。隊員が緩んでいるときは、カミナリを落とすことも必要です。
日本政府や東京電力のトップは、現場から信頼されているのか。危機対応の現場では、トップが現場に精通し、信頼されていないと迅速で有効な対策は打てない。今回の原発事故は、現場の危機管理マネジメントの重要性を改めて浮き彫りにした。
高山 消防隊は指揮官が必ず現場に行きます。何かの都合で隊長が不在ならば、消防署長だって現場に行きます。現場を知らなければ指示は出せませんからね。
原発事故の対応で不思議だったのは、なぜ指示を出す人が現場に行かないのかということです。設備の損傷やがれきの狀況など、現場に行かなければ分からないことがたくさんあります。トップの顔が見えないのは、現場も不安になります。(政府や東電が)危機対応をできないのであれば、防災のプロが司令塔になることも必要かもしれません。
強調したいのは、東電の現場社員は死に物狂いで頑張っています。我々の放水活動でも安全な道を案內してくれたり、常に手元を照明で照らし続けてくれました。今回は消防だけでなく、東電社員たちの協力があったからこそ原発危機に立ち向かうことができたことを、みなさんには分かってほしいと思います。