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5、朝の展望/清晨的展望

  思慕

  両手を合はして両手を見れば

  さみしい靜物のやうな氣分である

  遠く離れた人の心が

  まろく納められたやうな圓空である

  だからといつてひくい聲で

  「我が船ハバナを立つとき」をうたへば

  いやにしめつぽい春の宵である

  部屋の中で男が一人女が一人

  互にだまつて向ひ合つてるやうな感じである

  窓にちらほら白う見える

  あの頃の梅の蕾である

  あの頃あの娘に

  「我が船ハバナを立つとき」で送られてからといふものは

  引きつゞいて愛別の思念が

  二月の光りのやうに白く輝いてゐるのである

  思慕

  雙手合十,凝視雙手

  就仿佛在端詳某個寂寞的靜物

  離散者的心

  就宛如一個被收拾得渾圓的空洞

  即便如此,一旦用嘶啞的嗓音

  唱起“當我們的船駛離哈瓦那時”,

  就頓覺這是個潮潤得討厭的春宵

  房間裏有一男一女

  似乎正沉默著,麵麵相覷

  窗前有白色的星點隱約閃現

  原來是那時的梅花結出的苞蕾

  自從那時候那姑娘

  唱著“我們的船駛離哈瓦那時”送別我們

  離別的思念

  就一直像二月的太陽發出蒼白的光焰

  秋夕小景

  きばんだ草原が暮れかける頃に

  天がパツと明るむ一時がある

  町外れのビリヤードの冴えた球の音が

  田圃を越してこの窓ではねかへる

  子供らのざはめきとコスモスの落花

  風はもう寒く、人影はくろい

  杉林はもやになつた

  風呂屋の燈も明るく邊り一ぱいの野菊の花だ

  わづかに殘つた薄光の中

  秋の中で秋刀魚の匂ひなぞ胸をとりまく

  秋夕小景

  當枯黃的草原開始日暮

  天空曾一度豁然放明

  郊外的台球發出冷澈的響聲

  越過田圃,撞擊著這扇窗欞

  孩子們的喧囂和波斯菊的落英

  人影黢黑,秋風已冷

  杉樹林早就被霧靄籠罩

  周圍的野菊花流瀉著澡堂明亮的燈影

  夕照已所剩無幾

  秋日裏,秋刀魚的香味盈滿了心底

  椿(構圖)

  石が吸つた血の赤さ

  不義禦發度の片製敗

  お殿様の刀のさびは

  即ち形態美の不思議さである

  腰元、楓は今眼にわびしい

  花が咲いてゐる

  山茶花(構圖)

  石頭吮吸的鮮血一片赤紅

  那是對不義之舉的嚴正製裁

  老爺那把大刀上的鐵鏽

  散發著不可思議的形態美感

  而在腰間,楓樹此刻看起來淒寂無限

  啊,花兒已開綻

  女髪結ひ(構圖)

  そいでね、あたいおこつちやつたの

  だつて、いくら何でもね

  あたいにばかりかせがしてさ

  自分は自分でいゝ氣なもんさ

  おまけにね、この頃貸本屋さんとこの美代ちやんに

  ほれてるんだつてさ

  ちやんちやらをかくして

  (女髪結は泣いてるらしい)

  お蔵の渡しのそばのお風呂屋のお風呂ん中

  ペンキで描いた不二の山はとぼけてる

  言葉だけの女はきつとむしやむしやして

  羽織も引つかけずにお湯ぶうへきたんだらう

  くりからもんもんも坊主頭もしんみりしてる

  お蔵の渡しのそばのお風呂屋のお風呂ん中。

  理發女(構圖)

  所以啊,我真的是怒火衝天

  要知道,他千方百計

  盡讓我出來做工掙錢

  而他自己倒是得意萬分,風光無限

  再說,前一陣還迷上了

  租書鋪的那個美代姑娘

  說來實在是滑稽荒唐

  (理發女似乎在哭)

  在禦藏橋渡口旁的澡堂池子裏

  油漆畫成的不二山模糊而迷茫

  這個隻聞其聲的女人肯定是心煩意亂

  沒有穿和服外褂,就跑來了澡堂

  紋身男和禿頭男在隔壁靜聽著,悄然無語

  在禦藏橋渡口旁的澡堂池子裏

  退屈な秋夜

  くらくなつた世界に小さい燈だけほのゆらぐ

  風鈴の音で風があるなあと思ふことはわびしい

  手紙は三枚だけ書けばもうイヤになるし

  一體全體何處の誰宛に出すべきかも考へてない

  ペンををくと腕組みをするこの頃のくせ

  阿佐ヶ穀三四八番地は夜になると一層靜になる

  蚊でもぶんぶんうなれば私も少しは浮んで來るだらう

  うす暗い氣もちの中で機を抱へてることも

  重量のあるもんだと雲へば雲ひ得る

  小さい燈をにらんで私はもつと細かになりたいし

  何も案じたくはない

  無聊的秋夜

  日暮的世界裏,隻有一盞小燈在依稀搖曳

  風鈴聲提醒我起風了,頓感淒切

  信隻寫到第三頁,就已經厭倦

  甚至不曾想,該寫給什麽地方的什麽人

  一擱下筆就抱緊雙臂,這已成了近來的習性

  一到夜裏,阿佐穀三四八號地就變得更加寂靜

  就算是蚊子出來嗡嗡鳴叫,我也會好受一點吧

  在有些低落的心境中抱住桌子

  說它很沉吧,倒也的確如此

  瞅著小小的燈盞,我希望變得更加微小

  什麽也不願惦記

  南から來たお客の詩

  おやめ!花二鳳!

  南からきたお客はね

  泣き言なんか大きらひだよ!

  ごらん!花二鳳!

  このどすぐろい顔が月を見る

  お前の眼には明日の雨が降る

  泣きやんだか?花二鳳!

  汐くさいおいらの心にしみるのは

  お前の髪かざり、晩香玉!

  月の光りがまぶしけりや、まぶしいほどに

  この丸窓の芭蕉の葉がくれで

  お前と並んで天そらを見る

  おいらの死んだ母と

  おいらをすてた故裏の、故裏の

  あの船つき場の水の流れをきく

  だが、それは夢だ!花二鳳!

  お前のいゝ見さんはね

  今夜こそおこらない、今夜こそいゝ心!

  さあ、立ち上つてうたつた、うたつた「十送郎」

  お前のまぶしい黒瞳の中で

  おいらはきかう!あのあどけない「十送郎」

  『一更裏來跳粉牆手把那的欄桿嚇

  望々裏張美貌佳人紅燈坐

  十指那的尖尖嚇繍繍鴛鴦』

  南方來客的詩

  花二鳳!快停止哭泣!

  南方來的客人

  最討厭哭哭啼啼!

  瞧!花二鳳!

  你黢黑的臉仰望著月亮

  眼睛裏下著明日的雨滴

  是否已停止了哭泣?花二鳳!

  你的發飾和晚香玉

  已滲入我那帶著潮腥的心底!

  月光越是耀眼

  就越該躲在這圓窗前的芭蕉葉叢裏

  和你並肩眺望天際

  還要和我那過世的母親一起

  傾聽那拋棄了我的

  故鄉碼頭上的水流聲

  但那不過是空夢一場!花二鳳!

  你的好阿哥

  今夜才不會生氣,反倒是心曠神怡!

  哇,你站起來唱道,唱著那首“十送郎”

  從你眩目的黑眼珠裏

  就讓我來聽吧!聽那天真無邪的“十送郎”

  “一更裏來跳粉牆手把那的欄杆嚇

  望望裏張美貌佳人紅燈坐

  十指那的尖尖嚇繡繡鴛鴦”

  鷗

  ——水夫長の言葉——おゝ、汐の匂ひがばかにさばさばするな

  鷗やつらマストにとろとろしようと

  わしにはようく見えるんだ

  ね、局長、あんな白い平和な鳥

  夜になるまで本船をおつかけて來た鳥

  あれは對馬の鷗

  お天道様が沈んでしまへば

  ぐつすりとマストにまどろんでゐやがる

  實に可愛い生物

  あれで仲々戀もりんきも知りつくした鷗達やつら

  明日の朝、日が出りや

  本船を離れてばたばた又ついてくる

  鯨のやうな對馬生れの鷗

  ね、ごらんなすい

  少しうそ寒い西に風しが吹いてくりや

  鷗やつらはがつしりとかたまつちまいませう

  あれで明日の朝まで

  とろとろとよくまあマストにしがみついてゝ

  なかなか氣樂さうな鳥

  詩的な鳥

  わしらが大連の港へつけば大連の空をさまよひ

  でかい露助の家で

  若者たちがちんちんかもかもをやつてるときも

  鷗やつらはばたばたと

  一晩中あの煙の空、透明な空を飛びまはり

  しまひには羽根や眼がよわつて

  旅先でもろくも墜落慘死する

  實に可愛さうな鳥でございますよ

  まるで死にゝ行くやうなあの姿——

  ね、局長、禦らんなすい

  本當に可愛いあの姿

  この星天ぞらに輝く哀れなものゝ生命いのち

  さあ、あまりさばさばした汐風にぬりねい前に

  白鷹でもつき合ひませう

  いまに期月も出て

  浪の上の二十五年がぱつと明るくなるし

  「佐渡節」も咽喉をとんろりさせるし

  鷗やつらの白い姿を無心に眺め乍ら

  夜の支那海の宴さかもりにしませうね

  海鷗

  ——水手長的話——哇,潮水的味道出奇的幹爽

  就算海鷗在桅杆上打盹

  我也可以一目了然

  喂,局長,那麽雪白的和平鳥

  入夜前,就一直緊追著本船

  它們是對馬日本地名,位於日本長崎縣。的海鷗

  一旦日神沉陷

  就在桅杆上酣眠

  這真是一幫可愛的生物

  它們精通戀愛,並善於隨機應變

  明天早晨,一旦日出

  這些像鯨魚一樣出生於對馬的海鷗

  就會飛離本船,不久又跟蹤而來

  喂,請看啊

  隻要吹來一點冷風

  海鷗就會密密匝匝聚集在一起

  就那樣直到明天清晨

  迷迷糊糊地緊抱著桅杆

  真是一群愜意的鳥兒

  充滿詩意的鳥兒

  隻要我們一到大連,它們就在大連上空來回盤旋

  當在俄國佬碩大的豪宅裏

  年輕人們玩著單腿跳的遊戲時

  海鷗也拍打著雙翅

  整夜都盤桓在那煙霧繚繞的天際、透明的天際

  到最後,羽毛和視力逐漸衰退

  在旅途中脆弱地墜落而死

  說來這鳥兒也真是可憐

  那模樣就像是奔赴死亡之地——

  喂,局長,你看

  那模樣真是可愛

  這閃爍在星空中的可悲動物的生命

  喂,趁著還沒有被痛快的海風徹底濡濕

  就和白色的雄鷹盡情嬉戲吧

  不久月亮也要升起

  浪尖上的二十五年會霍然閃光

  而“佐渡小調”也會滋潤我的喉嚨

  凝神眺望著海鷗白色的身影

  就權當作是在享受中國海的夜宴吧

  冬

  夕方の町のすがたは凍てついてしまつた——

  空のさむざむした色を見ろ

  さくらの枯枝を見ろ

  水の白々とした流れを見ろ

  それでなくとも肩先きをたゝいてとほるものに

  冬が來ましたぜといはれたではないか?

  冬が來ました

  冬が來ました

  さつき妙な腰つきで

  オレのそばを過ぎ去つた空の汽笛は

  ぐつとカーヴして

  あの赤煉火の塀をとび越してしまつたのだ

  工場がへりの女工達の赤いほゝをつねつて

  あのか、ら、た、ち、の茂みの中へもぐりこんでしまつたのだ

  町を行くオレのすがたがしよんぼりとしてゐればゐるほどに

  あのいたづらものめは

  大きな聲で冬のしらせをどなるのだ

  裏町のとある小鳥屋の二階で

  きれいな娘が白い山茶花の一枝を眺めてかと思ふと

  あいつはオレの果報をうらやむのではないかしら

  あの針だらけのか、ら、た、ち、の茂みの中から

  のつぺらぼうの半身をつき出して

  いまにさむい風になるぞ

  オレの耳一ぱいのどら聲でどなるのではないかしら

  やがてあの雑木林の上に利鎌のやうな三日の月が出るとあいつも急に靜まり

  どこからともない曲馬團サーカスの朗らかな音樂がきこえ

  この片町の凍てついた風景も

  ぐつとやはらかい氣分を見せるのではないかしら

  さもなければ強い空つ風の夜となつて

  どこかでは一つの小さい火鉢がとりまかれ

  北の國の雪女郎の話や

  透明な氷すべりの話に

  りんごのやうな子供たちがよろこぶのではないかしら

  木も電信柱も石も橋も

  みんな赤い夕日にてらされて

  おい、若いの、風邪ひくな

  こゝは貧乏人の町だよ

  あまりいゝ氣持ちで歩くとすべるぞ

  ま向ひのくろぐろとした煙突のやつめが吠えるではないか

  いゝ氣になつて巴やきを賣る店先きの雀までさへづらせ

  このオレの下駄の音を透明にしてしまつたではないか

  家々のきいろつぽい燈に

  おゝその時だ!

  オレはふるさとの母と妹との姿を

  まつ白いみちばたで思ひ出したのだ

  凍てついた空の空色と

  海の海鳴りに

  おい、若いの、早くかへんねえ

  風邪引いたらいかんぞ

  あののつぺら坊主の汽笛と

  くろぐろとした煙突がまた大きな聲でどなるのではないか

  おい、ほんとだよ

  ふつとうしろをふりむくと

  朗らかな版畫のやうな風景が

  ほうとほんのり色でオレの背後をいろどつて

  木も石も家も何もかも

  たつた一時やはらかい氣もちでくつろいでゐるではないか

  冬が來ました

  冬が來ました

  オレはあいつらの聲を耳にしながら

  思ひ切り早足で歩いたのも

  あいつらの質樸な親切な心が身にしみたからだよ

  だからくろいマントを鳥のやうにまとひ

  家へかへつて暖かいけ、ん、ち、ん、を食べやうと

  オレはうれしい氣もちですべり出したんだよ

  オーイのつぺら坊主と煙突君さやうなら!

  オレは透明な下駄の音に追つかけられながら

  大いそぎでうちへすべるのも

  黃いろい町の燈ともしびとお前たちのありがたい心もちだよ

  オーイのつぺら坊主と煙突君さやうなら!

  冬

  黃昏的街景已經封凍——

  請看這空中冷冷的天色吧

  還有櫻花樹上的枯枝

  以及白花花的流水

  即便不這樣,那些拍打著你的肩膀,拂袖而去的東西

  不是也宣告著冬天的來臨嗎?

  冬天來了

  冬天來了

  剛才用奇妙的姿勢

  從我身邊溜過的汽笛

  突然拐個彎

  飛越了那道紅磚砌就的牆垣

  擰了一把下班歸來的女工們的麵頰

  就倏然鑽進了茂密的枸橘林間

  我走在街上的身影越是落魄

  那個惡作劇的家夥

  就越是大聲地通報著冬天的音訊

  一想到背街的某家鳥禽店的二樓上

  有個俏姑娘正凝視著一支白色的山茶花

  或許那家夥

  會憎恨我的好運

  以至於從滿是荊棘的枸橘林中

  探出幹癟的上半身

  當即變成凜冽的寒風

  用破鑼嗓子朝我整個耳朵大聲狂鳴

  不久,當鐮刀般的月牙升起在灌木叢的上空,那家夥也驀地變得安靜

  不知從哪兒傳來了馬戲團快活的音樂

  這街道上封凍的風景

  也會陡然盡顯柔和的氣氛

  要不,就化作幹風肆虐的夜晚

  人們在某個地方圍著小小的火盆

  講述著北國雪女郎的故事

  還有在透明冰麵上滑冰的趣聞

  讓蘋果般的孩子們好不興奮

  樹木、電杆、石頭、橋梁

  無不沐浴著紅色的夕陽

  喂,年青人,千萬別感冒

  這兒可是窮人的街道

  走得忘乎所以,肯定會摔跤!

  對麵那像煙囪般黑黢黢的家夥不是會狂吠嗎?

  甚至讓燒烤店前的麻雀也跟著起哄

  將我的木屐聲變得晶瑩透明

  而家家戶戶也點上了昏黃的夜燈

  啊,就在此時!

  我在雪白的街道旁想起了

  遠在故鄉的妹妹和母親

  在天空封凍的藍色

  和大海的鳴叫中

  那扁平的汽笛

  和黑黢黢的煙囪又在大聲地訓斥:

  年青人,還不趕快回去

  害上感冒可就壞了

  喂,這可不是說來嚇唬你的!

  我驀然回首一看

  那如版畫般明麗的風景

  就輕描淡寫地點綴著我的背影

  樹木、石頭、房屋和一切的一切

  不是都在輕鬆地小憩嗎?

  冬天來了

  冬天來了

  我之所以一邊聽著他們的話語

  一邊盡情地快步向前

  也是因為受到了他們那純樸善良之心的感染

  所以就像烏鴉般披上黑色的鬥篷

  回家去吃熱騰騰的鬆肉吧

  是的,我已懷著快樂的心情開始滑行

  喂,再見了——扁平的汽笛和煙囪小弟!

  我被腳下透明的木屐聲追逐著

  飛快地滑向家裏

  這也多虧了黃色的街燈和你們的好心

  喂,再見了——扁平的汽笛和煙囪小弟!

  喫茶店金水

  ——天津回想詩——あの日本租界の富貴胡同近くで

  フネフネと雲はれた夏の夜は

  ようくアイスクリームやソーダ水をすゝつたものです

  白いゲートルの可愛らしい中學生姿で

  三人の少年が

  晩香玉の匂ふ初夏の夜更けに

  ぽつかりと

  ぽつかりとあの喫茶店金水におちつくのは

  冷んやりした夏の夜露のおりるころ

  時計がいつも寢ぼけてうつ十二時近くです

  しかも夜の電影と白河河岸

  綠のフランス花園を歩き疲れたものにとつては

  あの金水のアイスクリーム

  白いプリンソーダの味のよさは

  實に心にしみるくらゐです

  あゝ、あの裏町·富貴胡同近くで

  フネフネとさはがれた去年の夏の夜は

  ようくアイスクリームやソーダ水をすゝつたものです

  あの涼しい喫茶店金水の燈のもとで

  美しくたれ下る糸硝子を眺め乍ら

  ひるまの暑さをも打忘れて

  三人の少年がこゝろよく語つた夜更けの快適さは

  いまの自分にとつても早一昔の夢のやうです

  あの朝鮮の美しい女が澤山ゐるといふ富貴胡同近くで

  アメリカの無頼漢兵士の一人歩きを不思議に思つたり

  フネフネとよぶ車夫の言葉が

  どうしてもわからなかつた去年の夏は

  いまの僕にとつて

  ほんとになつかしい思ひ出の一つ

  も早『すぎ去つた純真時代』と雲はれてゐます。

  “金水”咖啡館

  ——天津回想詩——在日本租界的富貴胡同旁邊

  在有人“嘰哩呱啦”吆喝著的夏日夜晚

  我們時常品味著冰激淋啜飲著蘇打水

  三個中學生模樣的可愛少年

  裹著白色的綁腿

  在漂著晚香玉清香的初夏夜晚

  “謔”的一下子

  一下子來到“金水”咖啡館

  這時夜已涼,露已降

  鍾聲懶洋洋地敲過了十二響

  他們看完夜場電影

  從白河岸邊溜達到法國花園,一臉疲倦

  對於他們而言

  “金水”咖啡館的冰激淋

  還有那白色布丁蘇打水的美味

  是多麽沁人心肺!

  啊在那條叫做富貴胡同的小巷旁邊

  在去年那個有人“嘰哩呱啦”吆喝著的夏日夜晚

  他們時常品味著冰激淋啜飲著蘇打水

  就著咖啡館那涼幽幽的燈光

  三個少年忘卻了白天的熱浪

  一邊凝望眼前垂下的金絲玻璃

  一邊暢聊,直到天亮

  這樣的場景現在想來,好似已成夢幻一場!

  在那據說有很多朝鮮靚女的富貴胡同旁

  美國無賴大兵的獨行背影令人頗費思量

  車夫們“嘰裏呱啦”地招攬著客人

  他們的話兒我卻聽不懂,一臉迷茫

  啊去年的夏天對於現在的我

  實在是美好的回憶,令人難忘

  正所謂“逝去的純真時光”!

  教會堂のある丘

  ——青島回想詩——あの丘に

  南蠻らしくも教會堂が並んでゐた

  長崎の和蘭氣分の如くに綠の瓦が輝いてゐた

  夕方なぞ市街から外出のかへりに

  あのだんだら阪をすたこらこら上る時

  私の目には

  いつもやさしいオルガンの曲がひゞいてた

  あの海の見ゆる丘一ぱいの

  古典的な建物のそれぞれから

  エルサレムの樂の音の如く

  夕映の天そらにオルガンの音がひゞいてた

  そして××禮拜堂、△△天主堂、明徳學校、聖功女學校

  長い石塀をめぐらして

  綠の樹蔭をもつたいろいろな洋館からは

  ようく中國人の子弟の出入する光景が

  實にたのしく且幸福さうに見えた

  それぞれ宗教のよろこびを感じ乍ら

  あの石だゝみの一本道を辿る光景に

  貧しい自分だなあと砂利をけつたりしたこともあつた

  あの聖地帯の靜かさに

  白い尼さんの行く姿なぞも自分は見た

  信仰に身をさゝげた若い女の姿は

  ぐつと自分に神らしさを感じさせ

  尊い僧正の夕やみの中に消ゆる姿なぞも

  うらさびしい夕風のやうなものだつた

  あゝあの時代自分は涙ぐましい風景を思ひ浮べてゐた

  少しさびしい生活のために

  若い心をすつかりしをらせて

  あの丘のオルガンの音を

  ひとり涙ぐましくもきいてゐた。

  有教堂的山丘

  ——青島回想詩——在某個山丘上

  聳立著一座教堂,它很有點南蠻的風尚

  充滿了長崎那種荷蘭風情,綠色的屋瓦熠熠發光

  傍晚,從市街外出歸來

  急匆匆地爬上那道懶洋洋的山坡時

  在我的眼裏

  總是會回旋著溫柔的風琴曲

  從看得見大海的山丘上

  密布的古典建築裏

  風琴聲響徹在夕陽映照的天際

  就像耶路撒冷的神聖音樂

  在××禮拜堂、△△天主堂、明德學校、聖功女學校

  那圍著長長石牆的

  綠樹掩映的西式建築裏

  常常可以看見中國學生進出的光景

  看起來是那麽快樂而幸福

  一邊感受著宗教的喜悅

  一邊沿著石砌的小道漫然前行

  有時會因為覺得自己很寒磣,而踢著沙礫來撒氣

  在那神聖地帶的寧謐中

  我還看見白色的尼姑走路的身影

  那種獻身於信仰的年輕女人的模樣

  也頓時讓我倍感神聖

  而高貴的僧侶消失在黑暗中的影子

  就恍如有點淒切的晚風

  啊,心中浮現出了讓那個時代的我淚眼潸然的風景

  因有些寂寞的生活

  我帶著黯然的心靈

  淚流滿麵地獨自傾聽著

  來自那山丘上的風琴聲

  雪夜

  ねえ妹よ

  僕が歸省してから

  ばかに暖い空氣となつて

  心よい新年もまぢかに迫つてゐるではないか

  かうして夜など母上はあ、み、も、の、をし

  お前がピアノでも彈いて

  僕一人ぢつと詩作する心地よさは

  たうてい青島の學校では味はれないしんみりした心で

  僕はかうした夜と

  どの位まちにまつてゐたのであらう

  ねえ妹よ

  たつた一人の黃寜馨よ

  父なくて

  親子三人しみじみと一つの部屋にあつまれば

  何の涙なしに

  この兄の眼が寂しく輝くか

  あゝかうして暖いストーヴをかこんで

  一夜降雪の音をきけば

  何の涙なしに

  回顧の想を抱くといふか

  雪夜

  妹妹啊

  自從我返鄉後

  空氣就一下子變得格外溫暖

  而快樂的新年不也就在眼前?

  就這樣,夜裏——母親大人編織著毛衣

  你彈著鋼琴

  而我則獨自醉心於寫詩

  這是在青島的學校裏難以體會到的愜意

  我等待這樣的夜晚已有多時?

  啊,妹妹

  獨一無二的黃寧馨

  沒有父親

  隻有母子三人靜聚在同一屋內

  沒有任何眼淚

  哥哥我,眼裏是否閃爍著淒切的光輝?

  啊,就這樣簇擁著溫暖的火爐

  靜聽著整夜下雪的聲音

  沒有任何眼淚

  或許我是陷入了對往事的回味?

  朝のよろこび

  しみじみした心の下で

  今朝信號所の旗がひらひらしてる

  荒涼な青空の下で

  朝風にひらめく入港の赤旗よ

  五日に一ぺんの便船よ

  日本からの懐かしいたよりをどつさりつんで

  アカシヤの疎林の間をちらちらしてる

  あゝ昨日までしけてた海が

  今朝すつかりおだやかになつて

  僕たちの書見の窓に

  待ちに待つた便船が現はれる

  長い間待つてた戀人のやうに

  僕のこの喜びは爆發しさうだ

  このよろこびに

  今日一日中おちついてゐられさうもないやうだ

  清晨的喜悅

  在寧靜的心靈下

  今早,信號所的旗幟在輕輕飛揚

  在荒涼的晴空下

  進港的紅旗在迎風飄蕩

  五天一班的郵船啊

  滿載著來自日本的久違音訊

  在稀疏的洋槐林間時現時隱

  啊,昨天都還波濤洶湧的海麵

  今早已經浪靜風平

  在我們讀書的窗前

  終於出現了期盼已久的郵船

  就如同等待了太久的戀人

  我的喜悅幾乎要引爆上天

  這喜悅

  似乎要攪得我整天都不得寧安

  朝の展望

  ——中川一政氏にさゝぐ見給へ

  砲臺の上の空がかつきり晴れて

  この日曜の朝のいのりの鐘に

  幾人も幾人も

  ミツシヨンスクールの生徒が列をなして阪を上る

  冬のはじめとは雲ひ乍ら

  胡藤の疎林に朝鮮烏が飛びまはり

  町の保安隊が一人二人

  ねぎと徳利と包とをぶらさげて

  丸い姿で胡藤の梢にかくれたり見えたり

  あゝ朝は實に氣もちがいゝ

  窓をふいてると

  暖い風が入りこみ部屋をぐるぐるまはる

  そしてあゝ

  日曜の朝はいつにない陽の流れ

  いつにない部屋の靜かさ

  この二階の室で海から山から

  僕は伊太利のやうなこの町の姿をも見ようとするのだ

  寄宿舎で一番見晴しのよいこの部屋からは

  はげ山の督辦公館も見え

  その上にまた

  信號所のがつしりした建物が見えて

  このあさみどりの空に

  數葉の旗がはたはたとなびき

  ゆふべ一晩沖に吠えてゐた帆前船が

  しづしづと

  しづしづと港へ入るではないか

  あゝ黒い保安隊の兵舎からは

  すてきにゆるやかなラツパの音

  海麵一帯朝の光りに輝いて

  軍艦海坼の黒煙りよ

  それからまた遠い向ふ岸の白壁の民家よ

  窓をふきながら

  春のやうな氣分もて

  こゝろしづかにも

  日曜の朝の展望をするのだ

  清晨的展望

  ——獻給中川一政先生瞧

  炮台上的天空晴朗而清澄

  隨著這禮拜日清晨的禱告鍾聲

  一群群,一群群

  教會學校的學生們排著隊伍沿坡攀登

  雖說是冬日的伊始

  可喜鵲卻在稀疏的洋槐林中四處飛旋

  有一兩個鎮上的保安隊員

  故意提拎著青蔥、酒壺和包袱

  蜷縮著身體,在洋槐林的樹梢間忽隱忽現

  啊,清晨的確讓人心情怡然

  一旦擦拭窗戶

  暖暖的風便魚貫而入,在房間裏來回盤桓

  而且,啊——

  禮拜日的清晨流瀉著不同於平日的光線

  還有房間裏不同於平日的靜閑

  在這二樓上的房間遠眺大海,遠眺山巒

  我還要盡覽這宛如意大利一般的街頭景觀

  從這宿舍裏風景最佳的房間

  能望見禿山上的督辦公館

  還有聳立在它上麵的

  信號所的堅實建築

  在這淺綠色的天空上

  幾杆旗幟呼啦啦地隨風招展

  在海麵上吠叫了一夜的帆船

  不是正靜靜地

  靜靜地駛入了港灣?

  啊,從黑黢黢的保安隊宿舍

  傳來了美妙而悠閑的號角

  海麵在清晨的光影中爍爍閃閃

  啊,海圻號軍艦冒著黑煙

  遙遠的對岸聳立著白牆的民房

  一邊擦拭著窗欞

  一邊懷著春天的萌動

  平心靜氣地

  展望禮拜日的清晨

  フランスの匂ひ

  クリーム色の船室キヤビンだ

  十八世紀の帆前船の中だ

  ほうれ、片よつた船の丸窓から

  水平線がかつきり見えるだらう

  夜は月が出て波がきらきら輝やく美しさ

  ほうれ

  「上げ舵」と水夫長の指揮する聲がのんびりと傾くだらう

  ほうれ、ねえ

  が、マダムよ、そんなに耳をすまさなくてもいゝ

  (自然の聲はすばらしい)

  さあもう一ぱい浪のやうにビールの中へ笑をそゝいでくれい

  船長はタバコものまないつゝましい大柄な男

  事務長は廣東生れの赤ネクタイ

  おれか?

  おれは濠洲がへりの眞珠採りさ

  マダムよ、そんなに不思議な顔をしなくてもいゝ

  おれか?

  おれはお前の瞳めのやうな真珠をとる働き手さ

  久しぶりで國へかへる女しらずの初心うぶな男さ

  氣に入らうとどつこい手に入らぬ若者さ

  マダムは知るや知らずか姿を消した——

  風が潮の匂ひをぷんぷんさせるので

  さあ、ビール氣分でこのたくましい胸毛を見せ

  カンガルーのなき聲でもやつて見せようかな?

  (鉢の木)

  法蘭西的氣味

  這是乳黃色的船艙

  是在十八世紀的帆船裏麵

  瞧,從傾斜的圓形舷窗

  可以清晰地看見水平線

  夜晚,月色皎潔,波光粼粼

  聽,“上轉舵”——

  水手長的指令帶著悠閑的回音

  喂,你聽啊,夫人

  不過,其實你不必那麽豎起耳朵

  (自然的聲音是美妙的)

  不妨再來一杯吧,就像波浪一樣把笑聲注滿啤酒

  節儉的船長是一位煙也不抽的大個子男人

  祖籍廣東的事務長係著一條紅色的領帶

  至於我

  則是從澳洲回來的珍珠開采人

  夫人啊,你不必做出那種不可思議的表情

  你是問我嗎?

  我的職業就是開采像你眼仁般的珍珠

  是一個久未回國,對女人一無所知的天真男人

  一個喜歡什麽也休想得手的年輕人

  不知不覺間,夫人已無影無蹤——

  因為海風釋放出濃烈的潮香

  所以,就趁著酒興給你們秀秀這雄壯的胸毛

  裝一聲袋鼠的啼叫吧

  (盆栽之樹)

  白癡

  白癡は今日も空を眺めてた

  白癡はこの青やかな雨上りの幸福を知つてるらしい

  この夏の青葉をすかした朝風に

  豐満な二つの乳房をあらはしては

  駄菓子やの前でぢつと空を見る

  そのほつそりした眼をほつそりとし

  そのアフリカ象の皮膚の色も氣にかけず

  半裸體のまゝで空を見る

  青やかな青やかな空を見る

  あゝ白癡、彼女は十八九

  たとへ人生のよろこびを知らない乍らも

  駄菓子やの前で

  青い巴杏子ぼたんきようをかぢり乍ら

  大きな大きな自然に眺めいる

  まはりの兒らすべて赤いりんごにたとへ

  彼の女、今日も街上の天文學者

  白癡がなしくも

  青やかな青やかな空を見る。

  白癡

  白癡今天也在望著天空

  白癡好像知道這放晴後湛藍的幸福

  在吹過這夏季綠葉的晨風中

  她露出兩隻豐滿的乳峰

  麵對一堆點心,她凝望著天空

  眯縫著那雙細長的眼睛

  對非洲象一般的膚色也無動於衷

  隻是半裸著身體,仰望著天空

  啊,白癡的她年方十有八九

  就算不知道人生的愉悅

  也還是端坐在一堆點心前

  一邊嚼著青色的布拉斯李

  一邊出神地看著廣袤的自然

  把周圍的孩子們全部看作紅色的蘋果

  她,今天依舊是街頭的天文學家

  這白癡煞是悲哀地

  呆望著湛藍的天空。

  天津路の夜景

  ——青島回想詩——ゆがんだ看板や

  涼しいビスヰ屋なぞずらりと並べ

  あの古びた獨逸町の

  夕やみをくゞつて僕がしたしんだ天津路

  あゝ天津路、天津路

  いやにくらい銭舗の銅子兒の音や

  ふとつた豚女や

  ぽくりぽくり高底靴をはいた魚屋や青物屋の若者や

  どこかのつぺりした官吏の少爺や

  大きな布團を脊にした田舎出の苦力や

  あゝ私は本當にあのころ天津路をむやみに歩いた

  あのバタくさい青島の町で

  しみじみと中國の生活にしたしむために

  燕の飛ぶ夕やみをくゞつて

  ゆがんだ金銀の看板をめでたり

  清爽な晩香玉の香りを鼻にしたり

  胡藤の花咲く山の中の

  きうくつな中學寄宿舎をぬけ出して

  さゝやかな料亭の一君子となつて

  初夏の夕ぐれを愛した

  一ぱいの蘭茶に

  あの東洋的な天津路の夕景を

  ぐつと心の中にのみいれて

  自分は中國人だといふことを無上の光栄に思ふた

  天津路的夜景

  ——青島回想詩——在那古舊的德國租界

  擠滿了歪斜的招牌

  和清涼的翡翠商鋪

  我穿過它昏暗的暮色,趕往熟悉的天津路

  啊,天津路,天津路

  錢莊那陰鬱得可怕的銅錢聲

  肥胖的女人

  穿著筒靴的魚鋪子和蔬菜店的年輕夥計

  不知是哪兒的麵無表情的官少爺

  還有背著大被褥、從鄉下來打工的苦力們

  啊,那時的我真是馬不停蹄地走在天津路上

  在青島那散發著奶酪臭的街道上

  為了熟悉中國的生活

  我在燕子盤桓的暮色中穿梭

  觀賞著歪斜的金銀招牌

  聞著晚香玉清爽的芳香

  我從山中開放著洋槐花的

  令人窒息的中學宿舍裏悄悄溜出

  搖身變成小小飯莊裏的一介君子

  深愛著這初夏的黃昏

  我品味著一杯蘭茶

  把充滿東洋風情的天津路夕景

  一口氣啜飲進心中

  我為自己是一個中國人感到無上的光榮

  詩集《瑞枝》後記

  時常琢磨著,該整理一下自己的詩歌,但卻一直沒有這樣的契機。這次終於下定決心,製造了這樣的機會。也因此而勞煩了諸多的友人。

  本人於1930年曾出版過百部家藏版的詩集《景星》。但卻是與本詩集無法相比的小小詩冊。

  本詩集沒有收錄在1931年後的南京所創作的作品。

  本詩集的名字借用自《萬葉集》。

  而且,之所以收錄過去的作品,乃是源於眾多友人的希冀。這樣說來,倒也覺得可以從本詩集中依稀看到一個人的過去。

  我希望本書能夠捧在各種各樣的讀者手中。

  為了向對我一無所知而閱讀本詩集的人聊表敬意,決定在此添附鄙人的照片和小傳。

  黃瀛

  一九三三年五月於南京郊外

  
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