個人資料
正文

たばこ考

(2009-12-23 03:54:14) 下一個
 
 低所得者層の方が喫煙率が高いという話を聞いた。
「なぜだろうね?」
「そりゃあ、低所得者の方が苦労が多いからでしょう。」
と、母が即座に答えた。

 二ヶ月ほど前のある日、父が突然、今日病院へ行ってきた、と言った。
「どこか具合が悪いの?」
と聞くと、病院で薬を貰って禁煙するのだという。そういえば、その少し前に盛んに病院で受ける禁煙プログラムのことを話題にしてたっけ。保険が効く病院と効かない病院がどうのこうのと。禁煙するぞ、という宣言も意気込みもなく、ひとりで黙って病院へ行って始めるとは父らしいと思った。
 50年以上吸い続けてきたタバコをやめる理由は、まず第一に健康の問題。最近血圧が高いことを気にしていた。それからタバコが大幅に値上げするという話があったから。
 一日一箱、吸ってきた。ハイライト。労働者のタバコ。軽いタバコが流行りだして、最近ハイライトを置いてないところがあるんだよな、と父がぼやくのを聞いたのは、もうずいぶん昔のことだ。軽いタバコに変えようとしたこともあったらしい。しかしそうすると吸った気がしない。吸った気がしないなんてタバコをのむ意味がない、かえって本數が増えると、またハイライトに戻した。

 數年前に近所のいきつけのタバコ屋が店を閉めた。それからしばらくして、カードがないと自販機でタバコを買えなくなった。早くカードを作らないと、と勧めても父は、麵倒だといって、結局作らなかった。最近、家のすぐそばにコンビニができて、コンビニで買やぁいいんだと言った。初めてコンビニでタバコを買うとき、
「ハイライト」
と言うと、店員が
「何番ですか?」
と聞き返してきたそうだ。父が何のことかわからずしばし考えをめぐらせていると、店員はカウンターの後ろの上の棚を端から目で追い、ハイライトを探し出した。
 父は後日、コンビニで他の客が銘柄を番號で指定してタバコを買うのを目撃した。
「棚に番號がふってあったんだよ。その番號を言って買うらしい。はは。」

 私はタバコの匂いをあまり気にしない。それは幼い頃からタバコを吸う父がそばにいたからかもしれない。タバコの匂いと父の匂いが重なるのだろう。匂いは記憶と結びつく。
 車がまだめずらしい時代、田舎の子どもたちは走る車の後を追って車の排気ガスの匂いをかいだそうだ。排気ガスの匂いは、文明の香り、都會の香りだった。今の時代、タバコの匂いは野蠻な匂いと化している。

 さて、父の禁煙は順調に進んでいる。薬が全然効かない、とぶつぶつ言いながら。タバコをのみたくならない薬のはずなのに。
 最近、風邪を引いた父は、
「タバコを吸ってたときは風邪なんて引かなかったな。タバコもコーヒーもどうやら殺菌の役目をするんじゃないか?」
と言う。
 いや、そんなことないと思うな、お父さん。あなたはタバコを吸ってたときも風邪を引いていたと思いますよ。

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