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ガラパゴスを出よう――巣ごもりは進化ゆがめる(

(2009-02-23 16:49:37) 下一個
2009/02/23, 日本経済新聞 朝刊, 5ページ, 有, 1957文字

本社コラムニスト 土穀英夫
 「進化論」で知られるチャールズ12539;ダーウィンは、一八〇九年二月十二日に生まれた。今年は生誕二百年と、主著「種の起源」発刊百五十周年が重なる。
 ダーウィンが進化論の著想を得たのは、二十代で參加した英海軍ビーグル號の世界一周調査航海だった。南米エクアドルの西約千キロの太平洋上に浮かぶガラパゴス諸島には、ひと月ほど滯在し、こう記した。
 「この群島の生物は特色がいちじるしく、よく注意する価値がある。多くの生物はその土地固有のもので、他所にはどこにも見ないものである」(島地威雄訳「ビーグル號航海記」)。今はユネスコの自然遺産。島で特有の進化を遂げたゾウガメやイグアナ、熱帯のペンギンなどを目當てに世界から観光客が訪れる。
 「ガラパゴス攜帯」などと言われる。日本製の攜帯電話は、國內消費者のこだわりに応えて技術を競い國內市場をがっちり抑えるものの、世界でのシェアは一割にも満たない。日本特有の進化の末に、世界標準とかけ離れてしまった。
 いま世界で、自動車より環境に優しい鉄道が見直され、投資計畫が多くの國で具體化しつつある。新幹線を生み第一級の技術を誇る日本勢だが、鉄道をシステムとして外國に売り込む場麵で苦戦する。JR各社をおもな顧客にJR仕様の技術を磨いたが、世界標準とは距離があるようだ。
 輸出が激減し、日本経済は石油ショック以來の落ち込みを體験中だ。輸出産業の代表格の自動車、電機各社の決算は、ほぼ総崩れで「內需をつくり出せ」という大合唱が聞こえる。
 內需は大事だ。醫療、介護など成長が見込める分野も多い。千五百兆円近い個人金融資産も內需につなげるよう知恵を絞りたい。だが、內需を重視するあまり「ガラパゴス○○」を量産しないか心配でもある。
 世界貿易は金融危機のあおりで今年は純減しそう。しかし、危機も不況も、いずれは去る。その後の世界は、やはりグローバル化の延長線上にあり、BRICsなど新興國の比重が、さらに高まる世界だろう。
 アダム12539;スミスが「國富論」を書いたのは、日本では田沼意次が老中のころ。その中に「金屬の市場は鉱山の近隣地域には限定されず、世界全體にわたる。日本で生産される銅はヨーロッパに輸出されている」(山岡洋一訳)という記述もある。価格が安い石炭は違う、と彼は続ける。
 つまり運ぶものの価格と輸送コストの対比で市場の大きさが決まる、というのだ。スミスから二百數十年、輸送や情報技術は飛躍的に発展し「より速く、より多く、より安く」なった。さまざまな財やサービスで世界が一つの市場に向かうのは、止められない。
 話を攜帯に戻すと、世界シェアの四割近くを握るのがノキア。人口五百數十萬のフィンランドの企業が昨年、四億六千萬台強の攜帯を世界で売った。隣國のスウェーデンも、ハイテクや自動車のほかに、昨年、銀座や原宿に出店したカジュアル衣料のH&Mなども世界に進出する。
 內需が限られる小國が、グローバル化に巧みに適合している。國際競爭力ランキングで両國は日本より上だ。北歐から學ぶのは、手厚い福祉だけではない。
 安全保障でも、ガラパゴス化が気にかかる。ソマリア沖のアデン灣で昨年百件を超す海賊行為があった。毎年約二萬隻の船がこの海域を航行し、その一割ほどが日本に関係する船だ。
 すでに歐米やインド、ロシアなどが艦艇を派遣。中國の艦船も活動を始めた。日本はようやく來月、護衛艦「さみだれ」など二隻を出航させる運びだが、武器使用などで、すったもんだがある。自分を縛って海賊退治もままならない。
 國連の平和維持活動(PKO)で、日本は、ゴラン高原などに要員を出すが、國連の國別派遣數ランキングでは八十一位の三十八人(自國予算でまかなう管理要員は除く)。人口が三十分の一のニュージーランドと肩を並べる。インドの八千人台や中國の二千人台とは格段の差だ。
 でも経済協力は、とかつては胸を張れた。一九九〇年代、日本の政府開発援助(ODA)額は世界一だったが予算削減が続き二〇〇七年の実績は米、獨、仏、英に次ぐ第五位に落ちた。
 これも気になるデータだ。留學情報などを提供する會社トゥモローの調査で、勉學のため海外に行く日本人留學生の數は、〇三年の十一萬三千人台をピークに減り続け、〇七年は十萬五千人弱に。若い人の內向き誌向が一因という。
 「內向する日本」は外部の目にも明らかだ。中國の人民日報の日本語ネット版「人民網」に「自ら『辺縁國家化』する日本、『二流國』への沒落を懸念」と題する評論が載っていた。愉快になれない內容だが、痛いところを突いている。
 危機はチャンスでもあるが、変革を恐れ巣ごもりしていては、好機をのがす。「進化論」は、環境の変化にうまく対応できた種が生き殘る、と説いている。
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