<原発30キロ圏>避難に最長6日…渋滯激化で 民間試算
毎日新聞 1月14日(火)7時12分配信
國內の全原発で、30キロ圏內の住民全員が避難するには少なくとも半日以上かかるとする試算を、民間団體「環境経済研究所」(東京都、上岡直見(かみおかなおみ)代表)がまとめた。地震との複合災害の影響などで避難路が國道のみに限られる場合、避難完了までに東海第2原発で5日半、浜岡原発で6日近くかかる。全原発を対象にした分析は初めてという。外部に放射性物質が放出されるような事故時に、すべての住民が被ばくを避けられる時間內に避難し終えることが不可能に近い実態が浮かんだ。【山田大輔】
今月25日、交通政策を研究する「交通権學會」の研究會で発表する。
政府の原子力災害対策指針で事故時の避難計畫が必要な30キロ圏內の市町村を対象に、車両登録されているバスの3割、マイカーの5割が避難時に使われると想定。全住民が圏外へ同時に移動するとし、渋滯の発生などを考慮する交通工學の手法で分析した。被災や緊急車両通行のため高速道などが使えず、國道のみが使える場合と、國道に加えて高速道や主要地方道もすべて使える場合との2通りで試算した。
その結果、國道のみで避難する場合、避難完了には最短の泊原発(北海道)で15時間、最長の浜岡原発(靜岡県)で142時間半かかると推計。高速道などが使える場合でも、最短の大飯原発(福井県)で8時間、最長の浜岡原発で63時間かかると算定した。
浜岡原発では、圏內人口が約74萬人の割に、道路が限られているため、マイカーによる渋滯の激化で、バス輸送が難航することが長時間化に拍車をかけた。県庁所在地を対象に含む東海第2原発(茨城県)、島根原発(島根県)でも、同様の理由で避難が長引く結果が出た。試算は、前提を単純化しているが、一部の自治體が公表している詳細なシミュレーションと同様の傾向が出ている。北海道は泊原発の30キロ圏內の避難に12時間半かかると推計。茨城県も東海第2原発の30キロ圏內で17時間、常磐道が通行止めなら39時間半としたほか、京都府は高浜、大飯両原発の30キロ圏內で最大29時間20分と試算した。
交通権學會副會長でもある上岡代表は「再稼働に向けた動きが本格化しているが、各原発周辺の道路事情は、福島事故後も抜本的に改善されていない」と問題視する。
◇被ばく回避へ対策急務
福島第1原発事故を受けた國會事故調査委員會報告書によると、重大事故発生から格納容器の損傷、放射性物質の放出までに要する時間は推定3時間~8時間半。今回の試算は、各原発でこの時間內に30キロ圏內から全員避難させることが難しい現実を突きつけた。原子力防災は原発の規製基準とともに「安全の両輪」とされ、今後の各自治體の防災計畫づくりが再稼働を左右する可能性がある。
政府の原子力災害対策指針では、5キロ圏內で事故後速やかに全住民を避難させ、30キロ圏內で1日以內をめどに放射線量を計測し、段階的に避難するよう規定。自治體は指針に沿って地域防災計畫を策定している。
対象となった原発の30キロ圏內では、いずれも6~7人に1人が子どもや障害者、高齢者、妊婦などの「交通弱者」だ。仮にその全員をバスで撙證趣工毪取ⅲ場?保鍛鶑亭玀違豫攻去箏斔亭?匾?趣丹臁ⅴ嘯工溥転手の確保に手間取れば避難はさらに長引く。學校や職場、田畑などに家族が分散している晝間の移動、雪の影響、行楽シーズン、ガス欠で立ち往生した車による渋滯など、試算で考慮していない悪條件が加われば、より長期化する。
各自治體は、業界団體と協力し輸送手段の確保に努めているが、バス不足を補うものの渋滯を招くマイカーをどこまで許容するのか判斷は難しい。さらに、ガソリン供給や交通誘導の在り方など、どう対応できるのか不確定な要素も多い。
福島第1原発から5キロ圏外の福島県富岡町が事故で避難を始めた時、登録されたバス約100台の大半が他町に出払い、確保できたのは數台だったという。過去の経験を共有するとともに、避難道路の早急な整備など抜本的な対策を迫られそうだ。【山田大輔】