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理係白書’05:第3部 流動化の時代/1 漂う“ポスドク”1萬人

(2005-11-06 15:19:01) 下一個
理係白書’05:第3部 流動化の時代/1 漂う“ポスドク”1萬人 顕微鏡をひたすらのぞき、真理を追究する。博士號を持つ人材は貴重な戦力だが、身分の不安定と背中合わせだ=東京都內で(本文と寫真は関係ありません) 研究の世界に「流動化」の波が押し寄せている。科學技術政策の指針となる「科學技術基本計畫」は、人の入れ替わりを盛んにすることで研究は活性化する、とうたい、流動化を奨勵した。教授のイスに「任期」をつける大學が現れる一方で、30代半ばになっても定職が見つからない博士たちが大量に生まれている。長い間、終身雇用を前提に動いてきた日本の大學や研究機関が直麵する、流動化の理想と現実を取材した。【中村牧生、元村有希子、永山悅子、寫真はいずれも馬場理沙】  ◇転身、阻む35歳の壁  朝、目覚めると、じっとりと脂汗をかいていた。白川進さん(34)=仮名=は夢の中で、ひたすら誌願書類を書き続けていた。  「書類に添える英語の論文が、突然、日本語に変わっているんです。焦りました。精神的に追いつめられているのかな」  白川さんは天文學の研究者だ。東京大で博士號を取った後、任期付きで働く研究員、いわゆる「ポスドク(ポストドクター)」になった。名古屋大で1年半、京都大で1年半。現在はポスドク3期目だ。  來年3月には任期が切れる。次の働き口を見つけなければならない。研究の傍ら、常勤職の公募を探して履歴書を送る。  就職活動は博士課程3年の時から足掛け7年。大學教員や研究職など40通の書類を出したが、「連敗」記録を更新中だ。「年末までは研究職を探しますが、ダメなら民間企業も當たるつもり。この業界に見切りをつけるなら35歳が限度だから」と白川さん。  研究職の多くは、応募要件が「35歳以下」。研究者としての人生は、今が正念場だ。    ■   ■  中學のころから、天文學者を夢見た。大學院に進學するころには、國の「大學院重點化」政策で學科の定員が倍増した。もともと天文學者として働ける場は多くない。「全員が就職できるわけじゃない」と覚悟して博士課程に進んだものの、これほど厳しいとは思わなかった。  ポスドク生活の6年間に、論文を4本書いた。研究者として、普通の業績は出していると思う。在籍した大學の教授や助手からは「ポスドクは研究に専念できていいよな」と言われた。「3年目までは、お金をもらって自由に研究できるいい身分だと思っていたけど、こんな不安定な狀態がいつまで続くのか、だんだん不安になった」  現在の月収は36萬円。ここから社會保険料と年金を払い、家賃5萬円のアパートに獨りで住む。今取り組んでいるテーマに行き詰まり、気ばかり焦る。「來年、どうなるかが分からないから、落ち著いて研究もできないんです」と白川さん。    ■   ■  白川さんのように、博士課程を修了して常勤職に就くまでの間、任期付きで働くポスドクは、知識と技術を兼ね備え、即戦力として研究を支える貴重な存在だが、身分は不安定。大學助手や民間企業の研究者などの常勤職は、分野を問わず「狹き門」だ。  京都府に住む高津淑人(まさと)さん(38)は4年半前、メーカーの研究職からポスドクに転身した。8年間かかわったプロジェクトが終わり、生産管理の仕事に回されたのがきっかけだった。「このまま會社にいても研究できる見込みはない」と、あえて不安定な境遇を選んだ。  現在はポスドク2期目。使用済みのてんぷら油からディーゼルエンジン燃料を作る共同研究に取り組む。任期は5年だ。  「35歳の壁」は気になるが、不思議と焦りはない。「安定した職を捨てたときに割り切れたんです」。研究が好きだという。「引っ越しは多い、給料は安いという麵で家族には苦労をかけているが、妻は『研究している時の方が生き生きしてる』と理解してくれている」と話す。  ただ、就職難はひとごとではない。高津さんは「國のポスドク製度の成否は、任期が終わった後のリスクを減らし、やる気を高められる狀況を整えられるかどうかにかかる。受け入れる企業がもっと増えれば……」という。  なぜ「35歳」なのか。ある國立大教授は「資質と年齢は無関係だと思うが、現実には40歳のポスドクに年下の助手が命令しにくい」と言う。「優れた研究者なら、ポスドクを2期やれば、実績とコネで就職先が見つかるはず。35歳、3期目という人を雇うのはリスクが高い」と、ある研究所の人事擔當者は打ち明ける。  96年に國が掲げた「ポスドク等1萬人支援計畫」に希望を託し、研究者を誌した若者たちの多くは今、30代半ばに差し掛かっている。「自己責任」という重い現実が彼らにのしかかる。  ◇日本発の論文、質量ともにレベルアップしたが…無給労働の博士も  文部科學省は昨年末から今年1月にかけて、初めて「ポスドク」の雇用狀況を調査した。  それによると、全國の大學や研究所1552機関が推計した04年度のポスドクの合計數は1萬2583人。03年度より約2400人増えた。  働き場所の內訳は大學が約60%、國立研究所から衣替えした獨立行政法人が約25%、殘りはその他の公的研究機関などだった。  給與の財源は、03年度実績で科學研究費補助金など競爭的研究資金が46%、大學の経営に使われる運営費交付金などが22%、奨學金製度が15%。「雇用関係なし」も5%あり、無給で働いているポスドクが少なくない可能性がある。  年齢構成(グラフ1)を見ると30~34歳が最も多く約46%、40歳以上も8%を超えた。女性比率は全體の約2割だったが、年齢が上がるほど増え、40歳以上では3割が女性だ。また、病気や失業など不測の事態に備える社會保険の加入率は47%だった。  ポスドクを多く採用している日本學術振興會と理化學研究所は、03年度に任期を終えたポスドクについて、その後の進路を調べた。終了直後、常勤の職に就ける人は3割前後で、再び任期付きの職や非常勤職を渡り歩く人が多かった(グラフ2)。  こうした調査からは、30歳を過ぎても期限付きの仕事を続け、常勤研究者並みの待遇を受けていないポスドク像が浮かぶ。  文科省で人材政策に攜わってきた有本建男・內閣府経済社會総合研究所統括政策研究官は「ポスドクの増加が原動力となって、日本発の論文・特許が質量ともにレベルアップした。一方、任期満了後の進路に明確な方針を示していなかったことが、身分の不安定さにつながっている。貴重な人材を活用する多様な進路を具體的に提示することが必要だ」と話す。  ◇背景にドクター激増  ポスドクは博士號を取得した後、大學の助手や研究所研究員など常勤(終身)の職についていない研究者を指す。  政府は第1期科學技術基本計畫(96~00年度)で、研究を推進する貴重な人材として若いポスドクの量産を目指し、「ポストドクター等1萬人支援計畫」を打ち出した。大學や研究所、民間企業などで3~5年の任期で働く若手研究者に、公的資金で一定の年収を保証するシステムで、研究現場の人手不足も追い風となり、ポスドクの數は急増した。  背景には、博士號取得者の増加がある。大學院の重點化政策で定員が2倍に増え、大學院に進學する學生が増えた。博士號取得者は02年度には年間約1萬4500人に上り、92年に比べて倍増した。  ◇「矛盾の根源は政府の認識の甘さ」--小林信一・築波大大學研究センター教授に聞く  なぜこんな事態になったのか。人材問題に詳しい小林信一・築波大大學研究センター教授(科學技術政策)に聞いた。  「ポスドク等1萬人支援計畫」は「科學技術創造立國」という掛け聲の下、慌てて作られた政策です。96年には科學技術基本計畫に盛り込まれ、國家目標になりました。  當時はプロジェクト研究が増えて新たな人手が必要になり、一方、行革で國立大や公的研究機関の定員が削られていました。1萬人計畫はいわば、人件費以外の資金を使って、実験の手足となる若手を雇える便利な方法でした。  しかし、限られた時間で成果を出すために、論文にならない力仕事をどんどんさせ、終われば放り出すというひどい使われ方も増えました。自分のテーマを研究することさえ許されないポスドクもいます。  そして直麵するのが「35歳の壁」。第2期の基本計畫に「30代半ばまでは流動的に」と書いてあるのを額麵どおり受け取った研究機関が、公募の際「35歳未満」という上限を設けたわけです。  ポスドクは研究活動のかなりの部分を支えており、數を減らせば、途端に研究は停滯します。一方で來年度以降には、大學の優れた研究に優先的に研究費を支援する「21世紀COEプログラム」が最終年度を迎え、任期切れで職を失った博士が大量に出て、対策が必要になります。  學位をどんどん出してきた大學院は、一度反省すべきです。博士自身も、研究だけでなく周辺の仕事まで視野を広げてキャリアを考えてほしい。  しかし根源は政府の認識の甘さです。「素晴らしい製度だ」と評価するだけで、十分な分析もなく、大學や研究機関の拡大誌向を放置した。本來のポスドク政策とは「優れた若手研究者の武者修行の場」だったはずです。ところが、研究費が増えて仕事も増えるから、人を増やせ、という論理が出てきて思考停止した感があります。  とはいえ、若い人に頑張ってもらわなくちゃいけないことは確か。現狀は博士を取ったら「後はお前たちの責任」という姿勢で、これはよくない。將來のために人材をどうするか、長期的な視點での再考が不可欠です。 ………………………………………………………………………………………………………  「理係白書」へのご意見、ご質問はrikei@mbx.mainichi.co.jp。他の記事へのご意見はtky.science@mbx.mainichi.co.jpへ。ファクスは03・3215・3123。
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