【ニューヨーク=地曳航也】北朝鮮の金正恩(キム?ジョンウン)委員長が今月中旬の南北首脳會談で「適切な時期に日本と対話し、関係改善を模索していく用意がある」と発言したことが分かった。朝鮮戦爭の終戦宣言の実現に向け、圧力強化を訴える日本を懐柔する狙いとの見方がある。日朝関係の進展にかじを切ったとみるのは早そうだ。
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金正恩委員長は南北首脳會談で「適切な時期に日本と対話し、関係改善を模索していく用意がある」と発言したという=朝鮮中央通信撮影?共同
発言は、25日(日本時間26日)にニューヨークで安倍晉三首相と會談した韓國の文在寅(ムン?ジェイン)大統領が伝えた。文氏は、日本人拉致問題などに関する日本の考え方を南北會談で金正恩氏に伝達したと説明し、金正恩氏の発言に言及した。首相は文氏に、金正恩氏と直接対話する用意があると伝えた。
金正恩氏が日本と関係改善に取り組むメリットとして考えられるのは中長期的には國交正常化後の経済協力だ。1兆円超ともされる數字が浮上している。日本政府は拉致?核?ミサイル問題の解決を経済協力の條件にしており、北朝鮮が経済協力を求めてくれば拉致問題の交渉を迫りやすい。
ただ、今回の発言について、北朝鮮が日朝関係の進展に向けかじを切ったと見る向きは少ない。ソウルの外交筋は「今は米朝関係に手いっぱいで日本に目を向ける環境は整っていない」とみる。
北朝鮮の最優先課題は2回目の米朝首脳會談を実現させ、朝鮮戦爭の終戦宣言と経済製裁の解除に道筋をつけることだ。中國とロシアが北朝鮮を支持し、韓國も融和路線に転じているが、日本は米國に圧力路線を働きかけ続けている。今回の発言の背景には、日本を懐柔して自らに有利な國際環境を醸成しようという計算がありそうだ。
実際、日本が終戦宣言や製裁緩和に慎重な姿勢を示していることに北朝鮮は神経をとがらせている。15日の朝鮮中央通信は、前日に河野太郎外相が「終戦宣言は時期尚早」と述べたことについて「無分別なたわごと。周囲からのけ者にされた者の斷末魔の悲鳴だ」とすぐに反応した。
金正恩氏が対話の用意に言及した南北首脳會談後も北朝鮮は日本への批判を緩めていない。26日の朝鮮労働黨機関紙「労働新聞」は「日本は過去の罪に対する誠実な反省と謝罪、賠償をしないなら、國際社會で堂々と生きていけない」と従來の主張を繰り返した。
日本政府は金正恩氏の姿勢を慎重に見極めながら、會談の実現を引き続き模索する。
首相は25日(日本時間26日)の國連総會での一般討論演説で「北朝鮮との相互不信の殻を破り、新たなスタートを切って、金正恩委員長と直接向き合う用意がある」と強調した。一方、今回の演説では北朝鮮への「圧力」には觸れなかった。昨年の國連総會では、演説の多くを北朝鮮問題に割き、各國に「対話よりも圧力」を訴えていた。