「平均年収2500萬円の村は中國人を使った“奴隷製”“ブラック農業”で成り立っていた」-。ネット上でそんな衝撃的な風聞が広がり、レタス出荷量日本一の長野県川上村が揺れている。発端は、村も設立に攜わり毎年數百人の中國人技能実習生を受け入れていた「村農林業振興事業協同組合」(解散)に、日本弁護士連合會(日弁連)が11月末、「人権侵害があった」として改善を勧告したことだ。しかし組合側は「善意の行為も人権侵害とされた。勧告はあまりに一方的だ」と反発している。真実はどこにあるのか。(小野田雄一)
班長が罰金徴収
日弁連が調査に乗り出したきっかけは平成24年、同組合が受け入れ、レタス栽培に従事していた中國人実習生の名前で作成された投書だった。投書には、中國人の「班長」が違法に実習生を管理していた▽班長から「深夜に外出したら罰金」「実習生を示す帽子を脫いだら罰金」など多くの名目で罰金が徴収された▽毎日未明から夕方まで休みなしで働かされた▽農家に日常的に暴力を振るわれた-などと書かれていた。
日弁連はこの実習生を含む5人の中國人実習生、組合役員、同村に住む中國人らから聞き取り調査を行い、事実認定を行った。この過程で、投書は実習生の名をかたった別人が作成したことが判明している。
日弁連が認定した事実はショッキングなものだ。中國人実習生は、連日の長時間にわたる激務▽殘業代の過少計算▽組合による賃金口座の管理▽罰金製度▽劣悪な住環境-などに縛られ、「自己決定権や人間的生活を送る権利が侵害されていた」と結論付けた。
米大使館に屆く
組合の狀況は日弁連の勧告以前も厳しかった。組合元役員によると投書は在日米大使館などにも屆き、今年6月に米國が日本政府に川上村の実習実態の改善を求める事態に。9月には東京入國管理局から「班長製度は違法」として、実習生受け入れ停止処分を受け、組合は11月上旬に解散した。
組合は「投書はデマだ」として、24年に長野県警に容疑者不詳で名譽毀損(きそん)罪の告訴狀を提出、今年9月には米大使館に抗議した。しかし組合元役員は「不確かな投書をもとに権威ある機関に一斉に批判され、反論は難しかった」と憤る。
複數の組合元役員は、実習生を日本に派遣する中國側の「送り出し機関」と協議の上、毎年2?3人の班長を置いていたことを認めた。その上で「農作業に攜わらない班長は実習製度の趣旨から外れ、違法は事実。しかし、班長製度の目的は実習生の不満を班長を通じて組合が把握し、農家を指導して実習生を守ることだった」と弁明する。
「ルール悪用」
罰金徴収については「噂があり、実習生に聞き取りをしたが、確認できなかった。ただ、地域住民の不安解消や円滑な仕事のために作ったルールが、罰金の根拠として送り出し機関や班長に悪用された可能性はある。監督責任の不備はあっても、『実習生の管理?支配のため組合も黙認していた』との日弁連の認定は事実と違う」と話す。人権侵害とされた他の行為についても組合側は異なる見解を示した=表。
別の元役員は「一部に問題の農家がいるのは事実で勧告は真摯(しんし)に受け止めている。しかし過酷な仕事で日本人アルバイトが集まらない中、大多數の農家は実習生に感謝し、帰國時は手を取り合って涙を流しているのが実情だ。組合全體で中國人から搾取していたことは斷じてない」と話す。
日弁連は「組合のあり方には問題があったが、村全體で人権侵害が行われていたとまでは認定しておらず、ネット上の川上村批判は不本意だ」としている。
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【用語解説】外國人技能実習製度
発展途上國の人材を日本で受け入れ、労働を通じて技術を伝達し、各國の産業発展に寄與することを目的とした日本の國際貢獻活動の一つ。滯在期間は最長3年。実習生には労働基準法が適用されるが、違法な実習の橫行や実習生の逃亡、「実態は単純労働者にすぎない」との批判など問題が山積。政府は新たな監督機関の設置などを含め、製度の再設計を進めている