個人資料
正文

のぞかずの淵

(2007-11-11 21:02:18) 下一個

 
 
覗いてはならぬという淵の傍らに立つ

淵は暗く深く靜まりかえり

一見、何ものをも映さない

緑の木立は密やかにざわめき

胸騒ぎの鳥聲が警告を伝える

何のために、禁を犯そうとするのか

そこに淵があるから、などと詮もないことを考える

淵を覗けば、おそらく浮き上がる

淵の底から、沈むボディが現れる

青ざめた白い肌

水にたゆたう黑い髪

踝に絡みつく緑の裳裾

彼女は待っていた

彼女の目を見つめかえす目を

浮かび上がるときを

彼女の手に差しだされる手を

引き上げられるときを

予感に怯えた私は身を翻し、淵を後にする

一陣の風が吹き抜け、獣たちは安堵の聲をあげる

取り殘された彼女の深い溜め息が

木々の間を縫い

低く長く尾を引きながら

私を追いかけてくる

 



[ 打印 ]
閱讀 ()評論 (0)
評論
目前還沒有任何評論
登錄後才可評論.