愛より強く
文章來源: Mercury.2010-05-19 07:01:47

 ドイツのハンブルクに住むトルコ係移民のジャイトとシベルの物語。 とても濃い物語で激しくて、切なくて、素晴らしい映畫だった。映畫の冒頭は、川辺でトルコ係のバンドがトルコの伝統音楽を演奏して、映畫のシーンに合った伝統的なトルコ音楽を使い、印象的だった。
 
 舞台はドイツのハンブルク。精神科病棟で、人生に絶望して酒に溺れ、自殺未遂を起こしたジャイトは、イスラム教への信仰が厚い保守的な家族から自由になりたがっている、同じく自殺未遂をしたシベルと出逢った。裕福な家庭で育たてられたシベルは、自由以外何も不足のない生活なのに、実家から離れたくてたまらなく、同じトルコ係ドイツ人のジャイトに偽裝結婚をしてほしいと願い出て、ジャイトは最初拒否したが、目の前で 自虐的な 自殺を図ろうとするシベルを見て、同情から申し出を受け入れ、愛のないはずの結婚生活が始まった。

 開放されたシベルは自由奔放に數々の男性と遊び、一方ジャイトも以前の戀人と時會う。そんな生活の中で、シベルと暮らすにつれて、本當に彼女を慕うようになっていた。だが、やっと自由を手に入れたシベルは、その気持ちに気付かず、奔放な男遊びが続いた。やがて、ジャイトがシベルの為に殺人事件を起こし、シベルもジャイトを愛していることに気付いた。
 
  ジャイトとシベル、この二人の生活、感情表現の激しさが圧倒的だった。妻の死という大きな絶望を抱えたジャイト。そして、自分を縛り付ける家族に絶望し、家からの脫出を熱望するシベル。家族から自由になったシベルの解き放たれたエネルギーの大きさには驚いた。映畫にトルコ音楽を演奏する楽団の映像がよく挾まれて、この作品に不可欠な要素を與え、激しい感情表現が緩和された。トルコ音楽のほか、激しいパンクロックのシーンもあって、音楽が上手く映像の雰囲気を盛り上げていたと思う。
 
 社會常識(倫理?)よりも自らの欲求に忠実だった二人、自分の本當の気持ちに気付いてからは、逆に、自分の気持ちを理性的に抑えた行動をするようになった。激しく長年に渡り戀愛を通して成長していく、そして、成長したことにより、自分の果たすべき責任というものに目覚めていく。映畫の後半で舞台がドイツからトルコへ移った。トルコでの展開や、そこから導かれるラストには、「そうなるしかない」と納得はできた。シベルは、一緒にいたい最愛の人との生活よりも、大切にすべき家族(娘)との生活を選ぶことにした。ジャイトも、一人故郷へ帰ることを受け入れなければならない。トルコでシベルは長い髪をショートスタイルに変え、仕事にも真麵目で、人格も変わったような感じがする。
  
 この映畫で、妻を失ったジャイトとジャイトを失ったシベルの自暴自棄の姿が痛々しさが哀しく印象的だった。極端な行動を繰り返す激しい主人公の 2 人、厳しいイスラム家庭の抑圧や、移民の生活の困難と居場所のない孤獨感を感じた。荒れた激しい場麵が多かったが、共に暮し始めた頃の數少ないハッピーな時間が甘美に思い出される。ウェディング・ドレスのシベルが道を歩いている姿が素敵だった。母に習った手料理で食事をした溫かな笑顔も印象的だった。 ラストはシベルとジャイトのそれぞれの選択、切ないけれど、最初の場麵で、自暴自棄でどうしようもないジャイトは醫者に、「世界を変えろ、変えられないなら自分の世界を変えるんだ」という言葉を言われて、最後まで心に響いた。愛を失った男と愛から逃げ出したい女、偽裝結婚から始まる真実の愛は辛かったと思う。

 愛とは?家族とは?幸せになるって一體どういうこと?と考えさせられる作品だった。心に何かを殘す映畫だと思う。間違えたら、もう戻りにくい、戻れないことだろう。