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▼1 「企業組織は生き物である。人體の機能に似ている。そのどれ一つでも不調 になると全體がおかしくなる。 健康維持には組織を有機體として捉え、多麵的 なバランスが大切」
寸言 現場の中間管理職問題は「不満」ではなく、「不安」の要素がきわめて強いとい うこと 「不満」は現狀改革のエネルギーが伴いうる。しかし「不安」からはエ ネルギーは生まれない。 不満はやる気のあるところから生まれるが、不安がも たらすのはやる気の萎縮である。
「不安の緩和は生産性向上に密接に結びついている」(ガルブレイス)
社員の安心感が伴う將來構想を明示している企業ほどモラル、モラールが高く、 社內の一體感が形作られている。
不安感と危機感は同じではない。前者は、相手の姿が曖昧で捉えられないので、 対応出來ない、もしくは、しようとしないところから生ずるもの、後者は、相手 の姿がはっきり捉えることが出來、対応し得るので、対応すべく奮起を促す、積 極的意思から生ずる。 ▼2 「悲観主義は単なる気分だが、楽天主義は強い意思の所産である」
寸言 プラス発想をせよ。
こんな時代だから仕方がない、また今の我が社の力では仕方がない
トップが諦めた瞬間から社員の士気や規律は急激に悪化する。先ず現狀を肯定 し、その中から、論理的に、長所を探し、長所をさらに伸ばすよう、プラス思考 が大事。
中間管理職の能力を引き出す有効な方法の一つは「結論を出すことが目的となっ ている會議に出席させ、結論に參畫させること。」 結論を出すべき會議は、二 つのタイプがある。「方向性」を出す、もう一つは「行動計畫、実行方法」策定 することである。
會議には結論を出すべきものと結論を必要としないものがある。効率化の一環 として、會議の削減が挙げられるが、一律に行うと企業の動きが止まることもあ る。會議は削減すべきものとむしろ増やすべきものがある。
組織の數が増加すると、その數を上回る勢いでコミュニケーションの數は上回 る。 組織が二つならコミュニケーションチャンネルは二つ、これが三つになる とコミュニケーションチャンネルは六つになる。それに伴い會議は増え続ける。 人が多いとコミュニケーションは希薄になり、二分の一と半減、働く意欲も二分の一になる。 ▼3 「組織とは仕事の體係であるとともに感情の體係である。組織には縦軸に羨 望、橫軸に嫉妬がある」
寸言 能力主義熾烈の中、羨望と嫉妬はつきもの。如何にバランスをとるか、能力評 価を納得できるものにするか、これからの人事政策で必須のこと。 「組織は限りなく無能レベルに墮ちていく」 ピーターの法則 ▼4 「組織は自壊する」
寸言 ローマが滅びたのは、外からの敵ではなく、実は內なる敵だった。 組織というものは外部の力によって滅びるよりも、自壊する方が圧倒的に多い。 満足しきった社內ムードに発展性はない。
組織は時代の環境に適合するように編成される。その時代の組織が優秀であれ ばあるほど、次の時代では使い物にならなくなる。組織はあくまで便宜的なもの である。
企業は得意な分野から滅びていく 今の時代に得意なものであっても、次の時代ではむしろマイナス要因になる。 企業はえてして、自社の得意な分野が強く、優秀なほどそこから脫卻できない。 次の時代には陳腐化し滅びの要因になる。老舗の沒落はその典型である。組織も 限りなく陳腐化していく。
成功神話の復讐 成功が一つの大きな企業風土をつくり、それが発展の邪魔になる。
人事は最終的には好き嫌いで判斷される 組織は人の感情の體係でもあり、上役は自分の存在を脅かす部下を遠ざける傾 向にある。自分より無能な部下を登用することで安心感を保つ、かくして、組織 は無能レベルに墮ちていく。 ▼5 「秩序を無秩序にするのは簡単だが、無秩序を秩序に戻すのは難しい。 時 間の方向性は秩序から無秩序に流れる」
寸言 倦まず弛まず組織點検を持続することが経営者の重要な仕事である。 「組織は目的ではない。経営方針を実現する手段である。経営目的の分配體係 である。また、組織は広い意味では人事の體係でもある。組織は社員それぞれの 長所をどうやって組み合わせるかによって、力量が違ってくる」
「未熟な組織を統製するために、権力を持ち込んで作り上げたのがピラミッド 型組織である。しかし、組織が成熟するにつれ、権力による統製ではなく目的に よる連帯、機能による分擔の方が自然である」
「トップマネジメントの組織運営は、異なった楽器演奏者、個性の強い演奏者 を指揮者が自分の音楽解釈(理念)に合わせ、一體化するようリードする、オー ケストラのアンサンブル演奏に似ている」 ▼6 「組織風土(社風)は人間で雲えば性格である。見えざる企業資産でもある」
寸言 企業にとって、社員の言葉遣い、頭の下げ方、歩き方、姿勢まで異なる。社風 は地域性、業種、規模、などにも影響され形作られるが、やはりトップの理念 (特に創業者)、考え方によるものが極めて大きい。社員の業務に対する考え方、 態度や姿勢はトップのそれを寫す鏡である。トップ交代は社風を変えるために行 うともいえる。
組織風土観察法(日経ビジネス “見えざる資産判別法”) <會話時の社員麵接近度> 食堂、廊下、エレベーターなどで社員が皆朗らかで大聲で話し合っている會社 ほど活力がある。社員が聲を潛めて內緒話をしている光景が目立つ企業ほど明日 は暗い。接近度30cm以內は危険水準、內緒話が多いということは人事がうま くいっていないことである。
<技術責任者のパスポート汚染度> 技術革新の時代、技術責任者のパスポートが、年間の渡航回數が多いほどその 技術水準は高い。ただし、渡航目的並びに目的地が観光、歓楽的色彩を帯びてい るものはその限りではない。
<上司、部下同席時の発言比率> 上司だけ発言するのは要注意、発言比率は上司40%、部下60%くらいが適 正値である。この尺度は、企業がどれだけ現場に近いところの意見を尊重してい るかを観るものである。逆に部下だけが発言するタイプは上司の現場把握の怠慢、 無責任を表す。
<トップ、役員の向こう傷> 前歴で彼らが課長やヒラ社員の時代、いかに若気のいたり的行動で上司と衝突 したか、その數が多ければ多いほど良い。そのような困りもの社員でも現在、役 員として起用されているのは、その企業人事の柔軟性と度量の大きさを示す指標 になる。出過ぎたことをする人間を抑えるという社風では、新しいものに挑戦す ることは出來ないし、経営戦略の思い切った転換もできない。
<女性社員の目の輝き> 女性時代の現在、女性社員を重要な戦力と位置づけている企業は伸びる。例え 補助業務やアシスタント的な役割をしている女性社員でも、電話の応対や接客態 度一つを観ても、自分で分かることはきちんと答え、分からぬ事は直ぐ擔當者に つなぐ、擔當者が留守なら用件を聞いた上で折り返し返事をするなど、自分のな すべき仕事を心得、生き生きとこなしている姿にその企業の女性社員戦力化の程 度が分かる。
<部下の報告書の簡潔度> 部下の書いた報告書を見ると、その會社の事務処理の対応が分かる。よい報告 書は要點のみ一枚に書かれてある。
<情報伝達は簡にして要> 第一情報は素早く関係者、セクションに伝達する。情報伝達スタイルは自由。 (電話、口頭、メモ、FAXなど)要點は簡潔に。結論を先に書け(雲え)。 ▼7 情報伝達の速度は人間の好奇心、関心の度合いによる
寸言 そのためには、企業の情報公開が必要、小は自分の所屬部門の部門収益から、 大は會社全體に渡る経営情報の公開が必要。経営、業務情報を知ることで、その 中での自分の役割や貢獻の意味、度合いを知ることが出來、自分の目標や生き甲 斐が定まる。
社內情報の共有化の効果事例 ● 會社の人事、組織、業績、製品部門利益を明らかにすることにより、疑心 暗鬼が無くなり社員意識の一本化が進んだ。経営情報をガラス張りにした結果、 全員會社情報が分かり、経営感覚を持って仕事をするようになった。 ● 自分の持っている情報を開示をすることで相手の協力を得ることが出來た。 ● お互いに情報を交換し、助け合うことで問題解決が早まった。また、似たよ うなを間違い犯すことが無くなった。
不測の事態の対応 例え予見できなくても、不測の転機に當たって経営者がいち早く関係者に事態 を正しく伝え、納得させ、足並みをそろえさせて対応させることが出來るかどう かが成功と失敗の分かれ目になる。それは、最早個人のリーダーシップの問題と 雲うより組織のコミュニケーションシステムと教育の問題である。
現在の企業戦略の決め手は“早さ”である。意思決定の早さ、製品開発の早さ、 不測の事態に対応する早さなど。但し拙速は避けねばならない。拙速を避け、か つ、素早く、的を得た対応をするには、普段から正確な戦略情報が素早く流れる、 社內コミュニケーションシステムの確立と社員の情報対応教育を十分にしておく ことである。
▼8 環境の多様性と変化の早さに対応した組織の一つは“情報を共有するマトリッ クス組織”である
寸言 環境の多様性に合わせて組織を増やすと(例えば事業部)、コストや無駄が大 きくなる。資源を節約しながら、多様性を増やしていくにはマトリックス組織が 有効である。
マトリック組織は社內外の情報を共有する。一人がいくつもの組織に関係する。 マトリック組織は、タテ割りの権限組織(機能部門組織、事業部組織など)と 交差させる形で、ヨコ割り(橫斷)の情報伝達のチャンネルを通す組織。 ヨコ割りの権限(社內の他部門、営業、製造、人事、経理などの組織を橫斷し て、情報を収集、共通化し、伝達する。社外の情報も同じ)を強化し、タテ割権 限と同等にしている。その組織に屬する部下はヨコとタテの二人の上司を持つ。
マトリック組織の事例、ニーズ対応組織、シーズ対応組織 変化する顧客ニーズに対応して製品開発していくため、一方はニーズ中心に考 えるプロジェクトをつくる。(機能別組織、長期的)擔當マネージャーは二人だ が、參加する社員はその両方に屬して研究、開発にあたることで情報を共有する。
組織體製を変革するには、先ず発想を変える。次に仕組みを変える。それから 中身を変える。いきなり中身だけいじっても無駄。 ▼9 組織の活性化原則
寸言 目標の設定と役割分擔化 (この組織に何を期待するのか、期待の明確化) 適所適材 (適材適所ではなく、組織に適した人材を配置する) プラスの能力評価 (マイナス評価はしない) コミュニケーション組織の確立 (自己統製に必要な情報を與える) 參加機會の増大 (社內外會議參加、新規事業、製品開発など) 能力開発システムの確立 (提案製度、新規プロジェクトなど參加、能力給)
組織の活性化は、管理システムから參加システムの比重を大きくすること。 (管理組織を越えた、あるいは橫斷的なプロジェクトに參加し発言、提案できる チャンスをつくる。経営戦略計畫や新製品開発などに參加、登用など)
物事を達成する過程は目的、手段、結果という流れがある。この流れの中で燃 えて仕事をするためには、その過程でどれだけ自分が自主的に関わったかである。
▼10 よく働く組織の三條件
寸言 有能な社員が自分は組織の中で活用されていると自覚できる“自己有能性” 自ら決めて働ける裁量度合いが大きい“自己決定性” 仲間や上司から自分の仕事や能力を認められている“社內(社會)的承認性” の豊な組織ほど人間は働く。 ▼11 元気な企業の共通點
寸言 マネジメントがオープン、経営の方向性、経営の狀況、経営者の考え方、職場 のコミュニケーション、など、様々なことが明確で、開かれている。
社員が活性化すると雲うことは経営者の指示が無くても社員が自主的に機動的 に動くこと。
組織が機能するためには単に命令や指示を強製するのではだめ、かつては社員 各人の“権限”と“責任”を明確にし、行使することで組織は働いた。現在では 上位者による説得、激勵、暗示、下位者に動機付けなどコミュニケーションを密 にすることが最も重要である。 ▼12 組織多重構造では、マネジメントがオープンにならない
寸言 例えば、製品開発において、組織が縦に長くなるほど情報が通りにくい。世代 感覚が異なるからである。 役員は真空管世代、部長はトランジスター世代、課長、係長はIC世代、若手 社員、新入社員はソフトウェアー世代、ソフトウェアーのところから良いアイデ アが上にあがっていくと、最後に真空管の処へ行く。真空管はスイッチを入れて も10秒くらいは燈らない。
組織管理型の経営は、獨創的な個人プレーを排して、機械均等型の人事を期す。 反麵、適材適所が犠牲にされて組織の活性化を損なう。 ▼13 いわゆる大企業病、共通の特徴
寸言 動脈硬化といわれる大企業病の特徴は、“ルール偏重”“數字偏重”“現場か ら遊離した意思決定”“考え方の同質性”“人事における減點主義”の5つに集 約される。これは當初は痛みを伴わないで進行するから厄介である。 ▼14 不良組織の兆候
寸言 経営階層の増加(相談役、會長、社長、副社長、専務、常務、平取締役、役員待遇) 階層が多くなると 目標の混亂、貧弱化 (それぞれの階層で、目標意識の違いや、達成意欲の差異 が生じ、それぞれがやりやすいように低レベル化する) 成績不良者の放置 (それぞれの階層で、責任逃れ、回避、転嫁など、無責任な 成績不良者が発生、放置される。“小人閑居して不善をなす”の諺どおり、派閥 爭いに終始する) 権限の過度の集中化 (それぞれの権限が細分化され、低レベル化され、結局権 限を一手で握るワンマン取締役、會長、社長などが発生) 適切な活動分析の欠如 (だれが、何を、どこまでやっているのか曖昧で把握で きない。意思決定が遅れる) のいずれかが生じてくる。 ▼15 未成熟な組織の共通項
寸言 目的と行動が不一致。個人的関係が優先。権限(決定、命令)に抵抗が強い。 各人思惑がばらばらで統一性の欠如。
寄生者の増加(モラトリアム、パラサイト) 待遇、付き、専門、専任職など自己の責任を持たない人が増加、上役の仕事 を助ける調整役、促進役、アシスタント的役割を果たしているだけの人、それぞ れで費用を使うので経費が増大。 意思疎通が困難 そのため頻繁に會合や會議を開く、委員會がやたら多い。日常の意思疎通が 阻害されている証拠。 情報伝達ルートが迂回 必要情報や提言、アイディア上申、伝達ルートが回り道している。 経営者年齢の偏向 高齢、老齢経営者が権力を握り、跋扈。
▼16 組織內の人間には2種類の責任がある
寸言 リスポンシビリティ(責任) 自分の判斷や行動に強い責任感を持つ、個人に関わる問題。 アカンタビリティ(説明責任) 自分の判斷や行動を社會や社內に対して説明する義務、組織に関わる問題。
権限と責任は等価ではない。責任の方が重い。 ▼17 組織を簡素化する理由と方法
寸言 一般に人員を減らすには、先ず事務を合理化して仕事を少なくすることから始 める。これは本末転倒である。 先ず、人數の方を少なくすれば、事務の合理化を自然にやらざるを得なくなる。 先に事務を合理化から始めると、抵抗が大きく大変な時間と人手がかかる。 人數を少なくするだけなら何の時間もかからない。事務の合理化の目的は“人 員削減”である。
人數を少なくすると、必要最小限の仕事しかできなくなる。必要最小限の仕事 こそがとりもなおさず事務の合理化である。
ある仕事に従事する人にとって、自分の仕事は決して不必要だと思わない。必 要性を理屈づけ、だから一生懸命やってるのだとして抵抗し防禦する。その仕事 を不必要として縮小もしくは廃止するには、先ず従事している人を餘所に配置転 換して始めた方が早道である。
リストラは経営の縮小につながるのに何故やるのか、非効率、儲からない部門 を廃止することで経営資源を浮かし、儲かる部門にシフトし、集中投下するため である。
“除害、省事” 「一利を興すには一害を除くにしかず、一事を生かすには一事を省くにしかず」 ~利益を上げるには、新しいことをやるより阻害要因を切った方がいい。新し い事業をやるには、古い事業を整理して餘裕を生み出し事業原資にすること。徒 な組織膨張を防ぐべきだ~ 元の名宰相“那津楚材”の名言。ジンギス汗に仕え、拡大、膨張する一方の帝 國の財政を建て直し後の発展の地盤を作り上げた人。
「組織論で、日本は概して“集団”としての人を中心に捉えるケースが多い。 “適材適所型”。 アメリカの組織論は“機能”を中心としたケースが多い。誰が組織を構成する かと雲うより、どんな機能で組織が構成されるかを重視する。そこへ、その機能 にふさわしい適材を配置する。“適所適材型”である。」 ▼18 米國のエンジニアリング
寸言 リストラが業務の縮小、組織の統廃合、人員整理によって縮小均衡を目指すの に対して、リエンジニアリングは目的、価値観の共有化、業務組織の見直し、再 編成による活性化=活力の増大、拡大発展につながる。
アメリカの優良企業を観ると、チームワーク、顧客誌向、新製品開発期間の短 縮化、どれをとってもじつは日本の先進的企業のいわゆる日本的経営からヒント を得たもの。しかし日本と違うのは、アメリカ流のリエンジニアリングの核心は いわゆるトップダウンの形で一気にビジネス構造の大変革を実行すること。その キーワードは“根本的”“抜本的”“劇的”にである。 ▼19 日本的経営はダメなのか
寸言 日本の経営がだめになったのは、経営者が明確な戦略を持たず組合も利己的主 張を繰り返しマネジメントが機能しなかったからである。結果、日本経営の優れ た基盤である安定的雇用形態が崩壊した。
{日産自動車“ゴ―ンが挑む七つの病革”}日経PR社 {トヨタ式最強の経営}日本経済社 柴田昌治、金田秀治共著 ノンフィクション作家立石泰典氏 日経新聞書評(2001 9月9日) 參照
{ゴ―ンが採った手法はシンプルで経営の定石的なもの、先ず社員の聲に耳を 傾けた。“解決策は必ず內部にある。それが実行に移されなかっただけである。” そこから生まれたのが“日産リバイバルプラン”。これは単にトップダウンだけ でなくボトムアップだけでもない。両方の要素を含んでいる。}
{彼は日産社員の會社に対するプライドを高く評価し、“財産”だともいう。 その財産を大切にする、つまり社員とビジョンを共有し彼らのモチベーションを 高め會社一丸となって改革を進める體製をつくったのだ。この改革の要諦は、日 本的経営そのもので、彼が何も日本的経営からの決別を目指したわけではない。}
但し、彼の合理性は現場の聲に単に耳を傾けたわけではない。現場の営業社員 が“もっと売れる車を作ってくれ”という注文を出したとき、“君たちは日産の 車全車種を乗ってみたのか”と問うた。彼は社長を引き受けたとき、他のライバ ル會社を含めて全車種に乗り、その性能、乗り心地を確かめていた。現場の聲と いっても、単に我が儘や思いこみ、反抗心から発せられたものでは意味がない。 それを選別し、たしなめるためにはトップ自身の現場に関する勉強努力が必要で ある。
{人員整理することなく好調なトヨタ自動車の日本経営の強さは考える社員を 育成し続けたことであり、その組織風土を作り上げたことにある。つまり“今日 の仕事”“今の自分”に安住することなく、絶えず“明日の仕事”を考え、変化 を恐れず、自主的に改善活動を前者に広げ続けた。それゆえ餘剰人員が出ていた ということなどない。トヨタでも、日本経営は絶えず改善されながらもツールと して持続している。
{ゴ―ン革命、トヨタ式に共通するのは、企業活力の源泉を個人(社員)の “自主性”に求め、彼らの能力を最大限に引き出すためにコミュニケーションを 重視していることだ。ところが、多くの日本企業は再建の柱を日本的経営の見直 しに求めている。本末転倒である。日本的経営からの決別を聲高に叫ぶ前に、今 一度最適な経営とは何かを考えるべきではないか。 ▼20 組織の和と創造性は矛盾するのか
寸言 組織は人間の集団であるから、和を尊び仲良くやらなければいけないという ことで、社歌や社訓の斉唱や社內レクリエーションを活発にし、和の精神を醸成 してきた。 ところがこの和の精神は、変化を忌み嫌い異端を排除する。これが企業組織 の変革を阻む矛盾となる。 和を持って、皆が同じ考えでやっていけるならいいが、今は違う。人も組織 も変革してやっていかねばやっていけない。変革は創造性、獨創性から生まれ、 往々にして和の精神を破壊する。 しかし、経営目的の遂行は全員の一致した考え方と協力、すなわち組織の和 が不可欠である。 和の精神と変化における創造性、獨創性というお互いに相容れがたい組織の 二つの必須事項を、どう創造的に融合させて活力ある組織にするかが大きな課題 だが、可能にする方策の一つは社內情報を共有化する“コミュニケーションシス テム”の構築と、社內全員に通じる用語(言葉)で語り合うことである。合い言 葉、スローガンなども共通言語となる。
経営の共通用語に“目標利益達成”があるが、これすらも各人受け取り方がま ちまちである。利益は粗利益、部門利益、営業利益、経常利益、當期利益のうち どれを目標にするのか、また、利益の必要性の考え方や達成方法も各人の価値観 によりまちまちである。この共通化がないと目標にはなり得ない。
「管理とは人をこうあるべきだと型にはめ込めるのではなくて、その人の短所、 長所を分別し、短所を捨て長所のみを適所に発揮させて集合するものである」
「管理とはトップの願いを正しく認識し、今何をすべきか、いかに働くべきか を考え行動する事である」 ▼21 部下を使うコツは部下に“自分はこの人に必要とされているのだ” と思 わせること (本田 宗一郎)
寸言 これからの経営者 長所を育てていけば短所は消える。 用いる以上委ねよ。 部下と才知を爭うべからず。
協調性はないが、能力ある、いわゆる組織のはみ出し社員を使いこなすには、 思い切って新規プロジェクトを委ねてみる。その際トップはその社員を選んだ責 任を負い、徹底的にバックアップの覚悟が必要。
経営資源は通常“人”“物”“金”といわれているが、中で人の占める割合が ますます大きくなっている。その理由は、経営の知識集約化、情報化、サービス ウェイトの高まり、結果、人間の頭脳及び人との觸れ合い(マーケティング)が 経営や製品の重要な構成要素となっていることである。
{強い衝撃を持ってわれわれが最初に學んだことは、知識集約やサービス労働 に置いては資本は労働、すなわち人間を代替できないと雲うことである} ドラッカ(未來企業)
人間はコストでなく資源である。 優位性の源泉は人に帰屬する。
{將來自社の企業は研究開発とマーケティングに集約されるだろう。どちらの 分野も設備投資やそのための資金投下だけでは成果が上げられない分野である。 人間の知識活動だけが成否を決する分野。} (花王、常盤 文克)
“少數精鋭”とは少數の精鋭社員で事業をやるのではない。少數の凡人で事業 をやっていくうちに精鋭になっていくことである。 (シチズン、中島 由男) ▼22 組織、20、20、60の原則
寸言 どんな組織にも、20%の優秀で意欲的なリーダータイプの人間と、20%の やる気のないもてあまし者がいる。殘りの60%は主體性がなくどちらかに引き ずられるタイプである。 組織の活性化は、リーダータイプの20%の意欲をフルに活用し主體性のない 60%を引きずり回すことである。もてあまし者20%の中には、能力はあるが 意欲がない者、能力も意欲もない者の2種類のタイプがいる。切り捨てる前に前 者が何故やる気を失ったのか、能力を発揮させるにはどうすべきなのか、活性化 を図るべきである。
前者の中に、案外彼の屬する組織、人事の欠陥(昇進體係、評価製度、教育シ ステムなど)が伺えるものである。
無用の用(荘子) “用なきを知って而して始めてともに用をいうべし”
世間の役に立たないとされているものが、別の意味で非常に大切な役割を果た している。役に立たないことがかえって有用である。
~大地に立っている人間にとって、用があるのは足が立っている部分だけだが、 それ以外の地麵を無用だとして全部掘ってしまったらその人は立っていられなく なるだろう。つまり無用だとされている地麵が実はその人を支えているのだ~ 自分は主役ではないが裏方として主役を支えている人もそれに屬する。
ありの逆説 蟻は一見働き者のようであるが、実は最も怠け者の昆蟲の一つである。今日の 研究ではあり集団の中で働く蟻は20%で後の80%蟻は完全に怠けているとい う。 そこで、働く蟻20%を隔離した場合と、逆に怠けている蟻80%を隔離した 場合、それぞれどうなるか観た実験がある。 働き組20%について、やはりその中の80%が怠け始める。ところが80% の怠け組からはその中の20%が働き始めたという。 この結果、働き組では誰かが働いているのを見ることで殘りの蟻は安心してし まい怠け始める。怠け組については、誰も働かない事態を見て危機意識を持った 蟻が働き始める事が分かった。 人間組織においても、いたずらにリストラで少數精鋭化を意図しても、またそ の中から脫落者が出來る。逆に、本當に危機意識を持てば人は懸命に働くもので ある。 経営者は“社員が納得する危機意識を醸成する”重要な責務をもつ。
ぶらぶら蜂 蜂も働き者として定評があるが、よく観ると中に何もせず日がな一日ぶらぶら しているものがいる。しかし、これを排除するとたちまち蜂の巣は騒然とし混亂 する。 実はぶらぶら蜂達は、情報収集、伝達、連絡係である。どこにうまい蜜の花が あるか、どこに敵や危険があるか、どこにもっと幼蟲を育てるのに適した場所が あるのか、などの情報を収集し日常の行動の指針を出し、行動の方向性を支えて いるのである。
設備は陳腐化する。稼動していても陳腐化するスピードは同じ。これに対して 人間は雲うまでもなく學習する。設備とは逆に新しさを維持し伸ばすことは可能。 ▼23 スポーツ組織に學ぶ
寸言 スポーツ組織は勝つために編成され、能率と効率を最大限に追求した合理的な 組織が多い。経営組織においても學ぶ點が多々ある。
{ラクビー組織に學ぶ} ラクビー選手は、自分の擔當領域は一応決められていても臨機応変、自在に走 る。必要なときはスクラムを組む。ボールが出た瞬間メンバーは自分がどう動く べきか分からなくてはいけない。むしろ、こうしろといわれなくても感知できる ように訓練する。
{野球型からサッカー型組織} サッカーは敵味方が混在した中で守りと攻めが自在に変化する。 選手は自らの役割を現在の狀況に応じて自分自身で瞬時に決定しなければなら ない。それも、常にチーム全體の動きを念頭に置き全體の運動効果を最大限に高 めるよう動かねばならない。 サッカーは、縦型組織のスポーツではない。個人と全體、つまり個人技とチー ムワークが融合、連攜、統合される並列のネットワーク、リレーション型組織で ある。そして、狀況ごとにほんの一瞬のチャンスを生かすために自在に変化する 柔軟性のある組織である。
野球のように攻めと守りが交互に決まっていて、選手のポジションが固定化さ れ、監督が中心となって、いわば、アナログ的、定型的にチーム全體を管理する わけにはいかない。
現在のように経営環境の変化が急で、激しい時代、しかも敵味方が混在し、入 り亂れて競爭している中で、一歩抜け出すのには変化に柔軟な組織、個人の創造 性と活力を引き出す組織が重要で、サッカー組織に學ぶ點が多い。
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