両手があんまり彼の頬に觸れたがるので
頭は困惑した
両手はどうしても觸れたくて
手に手をとって逃げ出した
両足があんまり彼の元へ行きたがるので
頭は苛立った
両足はどうしても行きたくて
砂煙たてて駆けて行った
腹の蟲があんまりぐうぐう文句を言うので
頭はうるさいと怒鳴った
腹はぺこぺこの腹を抱え
空腹を満たす旅に出た
後に殘ったのは頭がひとつ
見上げれば夕焼けの空
山の端が濃紺に縁取られていく
耳を澄ませば蟲の音
夜の帳が下り始める
冷たい夜露が頬を伝う
頭は無上の喜びを感じ
そっとまぶたを閉じた